中古車価格「ASK」の意味は? ノスタルジック2デイズで聞いてきました

まずはじっくり内容を聞いてほしいから

中古車サイトや販売店の店頭などでしばしば見かける「ASK」のプライス表示。価格応談、つまり金額は問い合わせてくださいという意味ですが、実際には価格が決まっていないわけではないのがほとんどのようです。では、なぜ最初から明示しないのでしょうか。ノスタルジック2デイズのミハラ自動車ブースで、その理由を聞いてみました。

結論から言うと、「まずクルマの中身を説明したいから」だそうです。たとえば今回展示されていた1997年式のいすゞ・ビークロスは、「ASK」となっていましたが、お尋ねすると車両本体価格は480万円とのことでした。新車当時300万円台前半のモデルですが、この数字だけを見ると高額に感じるかもしれません。しかし実際の車両は、走行5.1kmの個体をベースに全バラのうえ徹底的なレストアが施されたもの。新品部品の投入、補修、塗装、メッキの再処理まで行われ、いわば「新車同様」の状態に仕上げられています。そうした内容を説明せずに価格だけを掲示すると、単なるプレミアム価格と受け取られてしまう可能性があるというわけです。

さらに、冷やかしのお客(客じゃない?)が興味本位で値段を知りたいだけという人を避けたいという現実的な事情もあるそうです。本当に購入を検討している人に時間をかけて説明したいという意図があり、ASK表示はそのフィルターとしての役割も果たしています。

同ブースにはほかにもASK表示の車両が並んでいましたが、実際の価格を聞くと1993年式の日産フェアレディZ 300ZXツインターボが550万円、1985年式の日産フェアレディZ ZQターボ Tバールーフが600万円、1990年式の三菱ギャランVR-4500万円でした。いずれも価格だけを見れば高額ですが、内容を聞けばベース車両代に加え、部品交換、整備、修理、塗装といったレストア工程の積み重ねによるもので、希少性だけで値付けされたものではないことが理解できます。

では、その象徴的な存在とも言えるビークロスをあらためて見てみます。

展示車両は1997年式で、スチール鋼板と樹脂パネルを組み合わせた独特の外観が当時の色艶で再現されています。特に特徴的な樹脂部分は白化による変色もなく自然なブラックを保っており、経年車とは思えない状態です。

エンジンルームは「新車では」と思うほどの綺麗さを見せており、V63.2Lエンジン本体だけでなく、樹脂カバー、ゴムホース、電装系ハーネスに至るまで黒い部品は艶やか。メッキパーツにも錆や曇りはありません。メッキなどの金属加工を専門とするグループ企業を持つ同社ならではの仕上がりと言えるでしょう。

インテリアも同様に高い完成度です。レカロシートやMOMOステアリングは使用感が極めて少なく、現行車の良質な中古車と比べても遜色ないレベルで、「新車のまま保管していた」と言われても違和感がないほどです。

そもそもビークロスは、1993年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「ヴィークロス」をルーツとしています。いすゞが1BOXや四輪駆動車を除く乗用車の自社開発から撤退すると発表した時期と重なりますが、ジェミニをベースにした「全天候型スポーツカー」というコンセプトを掲げていました。現在でいうクロスオーバーSUVを先取りした存在で、デザインだけでなく発想そのものも時代の先を行っていたと言えます。市販化にあたってはミューやビッグホーンのプラットフォームを流用し、1997年に車名を「ビークロス」として発売されました。

しかし販売台数は伸び悩み、国内登録は約1800台とも言われています。当時は本格四輪駆動車ブームが終息しつつあり、日産テラノの国内販売終了など市場環境も逆風でした。特徴的なデザインであることと2ドアであり実用性に対してもバブル崩壊が身に沁みてきた時代にはいまひとつ、と判断されたこともあるでしょう。もし乗用車ベースのまま市販されていたら……あるいは登場が30年遅ければ……と想像したくなるモデルです。結果的にビークロスは、バスやトラックを除くいすゞ最後期の自社開発乗用車のひとつとなりました。

8090年代のネオクラシックと呼ばれる車両は、走行可能な個体もまだ存在しますが、安心して乗れる状態に仕上げるには相応の手間と費用が必要です。例えば父親が長年使ってきた車両などという強い思い入れがある特定の個体でない限り、より良好なコンディションを求めるのは自然な流れでしょう。ミハラ自動車の車両は、それを高い水準で実現したものと言えます。

価格が決まっているのに表示しないASK。その背景には、単なる値札では伝わらない作業内容と価値を理解してもらいたいという意図がありました。クルマの価格ではなく、クルマにかけられた時間と手間に加え、専門店として安心して長く乗ってほしいという気持ちを含めて判断してほしい――ASKという表示は、そうしたメッセージでもあるのだと感じました。けして¥ASK(安く)ではありませんのでお間違いなきように……

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