自動車とCN_vol05

BEVが理想的な移動体でない理由とは?【自動車のCN化-その真実_全てBEVになる日は来ないvol.12】

  • 2026年3月10日
  • 2026年3月8日
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バッテリーを床下に搭載することで車両はどうなる?

ここでBEVの“乗用車として”の車両レイアウトにおいては、薄い箱状にした構造体の中に電池群を収めた「バッテリー・パック」を、キャビン床下に、車体骨格を組み立て塗装などを済ませた後の最終組立工程でその下側から組み付け、固定する構成が一般的になりつつあります。

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単電池=1セルは、負極-電解質-正極を層にして重ね、巻いて円筒形か角形にするか、シート状のラミネート形態にする。何百Vもの電圧と大容量を必要とするBEVではこれを何百セルも集めて「組電池」にして搭載する。
写真:日産自動車

このバッテリーパックの「厚み」があるので、クルマ全体のプロポーションとしてちょっと“背が高い”、俗にいうSUV‘ふう’のモデルが増えているのです。本来はキャビン空間を少し上に広げて乗車姿勢をアップライトに、つまり腰の折れ角を浅くして立て、頭と視点を高くすることで、座り方としても筋肉・骨格系に余裕が生まれ、視界も広がることが長所になる乗用車のジャンルなのですが、そのボディの厚みの下部を電池が占有するわけで、キャビンの天地は広がらず、路面からより高い位置に足と腰を置いて座り、揺れや横力、ロールとピッチの動きを受ける、という居住空間になります。人間が、走るクルマに乗っている時の身体影響を調べている、私とある大学の最近の研究に照らすと、これはキャビン床下に空間を設けていないSUV系車両と比較して、「心地よい移動」からは遠ざかる方向なのですが。とはいえ、バッテリーパックはただ電池群とその制御システムを収めるだけでなく、まず雨雪や泥などに対する耐候性を、それもそれなりの速度で走り続ける中で確保し、さらに法的に求められている各方向からの衝突試験はもちろん、実際の走行の中で何かがぶつかってきたり、極端な事例としては硬い金属の棒状物体が刺さって来るようなケースまで含めて、短絡や発火、爆発的なエネルギー放出が起こらないように、構造的な安全性を確保し、実際に試験して確かめることが必須となります。そういう「構造物」で、嵩張って重量も大きいものを、クルマ本来の機能、居住空間と走行能力を低下させないように積むとなると、この床下搭載方式がとりあえずの最適解だというところに落ち着きつつあるのです。
多いものでは車両全体の重量の3分の1以上にもなるバッテリーパックを、前後輪間の床下全体に“敷き詰めた”形態のクルマは、私が走らせてその運動を確認すると、ちょっと独特のものがあります。人間の足元より下に広がる重量物が、車輪中心と同じあたりの高さで加減速のたびに前後に慣性を持って動こうとする。4つのタイヤに加わる荷重とその変化がなかなかきれいに出ないので、走りがギクシャクしがち。そして車体+電池が重いのを支えるためのスプリングを硬いもの、すなわち荷重に対する伸縮量が小さいものを組み込むので、キャビン側、車輪側とも、揺れ(振動)のピッチが速く、小刻みに跳ねたり、足元がバタついたりしがちになります。どうやら、BEVには電池重量の重さに合わせてクルマとしての基本レイアウトと走行機能設計が必要だ、という私の実感なのですが、今はまだそこまで進まずに既存の自動車設計・製造手法をそのまま使っているので、こうした「動質」の低下が起こるのは力学の必然、でもあります。
さらに自動車の運動の「全て」を生み出し、支えるのはタイヤなので、それも負担荷重・慣性力に合わせたサイズと構造にしなければならず、走れば摩耗も多くなります。実際、大容量電池を搭載するBEVはタイヤ摩耗の進行が早い、という声が上がるようになっています。
まぁ、全てにおいて、搭載するバッテリーの重量をこんなに重くしないこと、が基本になるのですが。

自動車とCN_vol05
液体、気体の燃料が持つエネルギー量と電池が蓄えられるエネルギー量を、体積あたりと重量あたりのそれぞれについてプロットした概念図。体積あたりは右に行くほど、重量あたりは上に行くほど密度が高い、すなわち少ない量の中に大きなエネルギーを持つことができる。ここで重量あたり密度については対数表示であることに注意。つまり100,1000,10000と10の何乗かの桁で増えていく。つまり体積あたりで見ても同じエネルギー量を保持するのに、電池は容積としても液体燃料の10〜20倍が必要なのだが、重量あたりで見ると実質100倍も重くなる。電池の性能が”飛躍的に”向上したとしても、エネルギー密度としては現状の2〜3倍程度、最も楽観的な予測でも5倍程度であって、このギャップは広いまま、なのである。
図:トヨタ自動車

このようにBEVの「走るクルマ」としての資質を体験し、考察を進めた結論。それは、物理学の、そして工学の原理原則に立ち戻って考えてみれば、「一充電航続距離を伸ばそうと、電池搭載量を増やしてはいけない」「電池重量と航続能力の間で、あるバランスポイントを見出すことが肝要」というところに行き着くのです。

でも、そうした弱点は「電池の改良」で、さらに「画期的な電池の出現」で、解消されるのでは? と考えたいのもよくわかります。
しかし…
化学電池であるかぎり、現状に対して「飛躍的な性能向上」は実現できない。そう理解しておく必要があります。なぜならば、化学電池とは、前にもお話ししたように、ある物質を構成する元素の原子核のまわりを回っている電子を、多いものでも2つか3つ引っ張り出して動かすことで、電力を蓄え、電流として送り出すもの。つまり無尽蔵に電子を使いこなせるものではありません。現在、実用化されている電池でも、高性能とされるものでは、その構成物質の中から引き出せる電子の動きをかなりのところまで使っている、と考えていい。以前、私が取材した電池の専門家もそう語っていました。
今後、化学電池の「電子の使い方」を飛躍的に向上させたとしても、重量あたり蓄電容量は、今日の2倍までいけば相当に「すごい」。そう理解しておいたほうがいいと思います。
つまり、4人乗りサイズの移動空間を300〜400kmほど走らせるために必要な電池の重さは、飛躍的な技術改良を前提にしても今の半分、300〜400kgまで減るかどうか。
ちなみに最新のテクノロジーを実装したICE車両なら、同じ走行のために消費する液体炭化水素燃料は20ℓ、重量にして15kgほど。それも走りはじめの量、重さで、走れば減っていきます。
先ほども述べた、電池の重さが移動体としてのクルマの資質の全般にわたって“足を引っ張る”ことを様々に体験している私の実感としては、乗用車であれば電池の重量は200kg程度まで、できれば100〜150kgに抑えないと「ちゃんと走る」ものは作れない。
つまり電池が電力を蓄える能力が今の倍まで“進化”したとしても、電力容量は40kWh程度に。
重量削減とともにクルマの本質的なところを相当に上手く作って、今のBEV乗用車の実用電費の実力、すなわち4〜6km/kWhの1.5倍まで改良したとしても、一充電航続能力は250〜350km。
これが乗用車としてのBEVの将来像であり、もう少し小さな移動体を、もっと短い距離を走らせるのに使う。BEVはそういう存在だと割り切って、使い方を考え、次の時代の道路交通社会を組み立ててゆくべきだと、私は考えているわけです。
まして、もっと大きく、多くのものを長い距離運ぶ大型貨物車(トラックやトレーラー)、長距離バスなどは、BEVではまったく成立しない。どうしても「全電動」にするのであれば、積載量・人を現状の何分の一かに削って、さらに100〜200kmほどの区間を区切って、貨物であれば全てをトレーラーにしてトラクターヘッドを繋ぎかえて走る、バスならば旅客が乗り換えるかトレーラーに置き換えるか、新しいシステムを構築、移行しないと。それはつまり、道路と自動車による物流と移動の仕組みの根本から組み立て直す、ということになります。そこに、どれだけの工数と社会的コストが必要になるか、移行がスムーズに進むか…などなど様々な課題が浮かび上がります。<続く>

(両角岳彦)

 

 

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