チャレンジを忘れないマツダがまたやっちまった!のか?
マツダの次世代を代表すべく2022年にデビューしたCX-60ですが、その当時は正直言って、自動車専門メディアからはだいぶ辛口の意見が大量発生していました。
CX-60はデビュー時に、新開発の直6エンジンとFRのプラットフォームをいっぺんに出してきたわけです。イマドキ、直6のエンジン!? FRのプラットフォーム!? それだけ聞いたら前時代的なキーワードを並べたようでもあり、そんなことするのは他メーカーにはあり得ない、マツダだからやってのけたと言えるのです。
僕も試乗しましたが、「うーん、SUVでこの硬さは納得してもらえないんじゃない?」「なんだか変速機あたりから音がするし、つながりや切れるときが不自然なときがあるな」といった印象を受けた記憶があります。
かく言うワタクシ、初代プリウスがデビューする直前、長野オリンピック開催目前の会場付近で試乗させていただき「おおー、俺が生きてる間に新しいパワーユニットの乗り物が発明されてんじゃん!」と興奮を覚え、21世紀にはまだ3年以上も間に合った1997年の発表会が行われたその日に、値引きゼロの215万円で注文しました。ちなみにその価格は、いくらで値付けしても開発費は回収出来っこないから「21世紀へGO」が由来だと噂されました。
初代プリウスのカックンブレーキを記憶しているかたも多いことでしょう。ブレーキペダルに足を乗せ、ちょっと踏み込んだらギューンと回生ブレーキにより減速しちゃいます。そのまま速度ゼロまで持っていけば、つんのめって停止しては、すぐに前後の揺り返しが来たものです。けれど、それをネガには感じることなく(買っちゃったから失敗したとは思いたくないから…?)、オレこそが新しい乗り物に乗っているだ、それを乗りこなしてこそ新世紀のドライバーなんじゃないか、と思い込んだものです。連続登坂ですぐにバッテリー切れ警告の亀マークが出ても、下りになれば庭からプチ油田が発見されたようにイメージすればなんてことない。何と言っても、当時のAT乗用車のざっくりした街乗り実燃費は7〜10km/Lが平均的だと記憶してますが、プリウスは15〜17km/Lを出して満足してました。
1998年に納車され、当時所属していたのがoption編集部だったためにローダウンサスを入れたりして乗りこなした(つもりの)クセスゴ初期モデルNHW10型は、マイナーチェンジで後期型のNHW11となり、カックンブレーキはすっかり改善され、あのプリウス運転スキル向上の努力はなんだったんだ…と嘆くより、自動車技術の発展に参加できたんだという満足感が上回っていました。
というわけで、機構として新しいワケではない直6もFRを復活させ、むしろ絶滅危惧種をDNA操作によって蘇らせたジュラシック・パークのような奇想天外エンタメも含んでいると思えば、乗り味が特殊だってむしろ当たり前でしょ、と思ってももらえたのではないか。聞くところによると、初期のCX-60の立ち上がりは、僕のような新しもの好きのが購入してくれたそうで悪くない時期もあったそうですが、まあやっぱりそういった愛すべき「変態」は多くはいなかったようで、広く一般に受け入れられる数にはまとまらなかったようでした。
そこで今回、マツダはまたやってくれました。マイナーチェンジなのに、外観や内装の見た目は変えず、バネレートやらダンパーやらを大幅に変え、明らかに違う程度に進化させたモデルを登場させたのです。コスモスポーツが、マイナーチェンジでホイールベースを延長されたのに次ぐ快挙かも知れません!
ソフトなアタリのXD-HYBRID Premium Sports
さて、そんな背景の中、新しいCX-60に乗ってみました。まずは3.3リッターディーゼル/ハイブリッド/四駆のXD-HYBRID Premium Sports(試乗車オプション込み価格574万7500円)です。マツダ車の象徴であるソウルレッドプレミアムにいわゆるタンと呼ぶオレンジ色っぽいナッパレザー内装で、シリーズの中ではやや特別と言えるPHEVを除けば最高価格帯モデルで、スポーティSUVの中にゴージャスな雰囲気も持ち合わせています。柔らかな革の表皮が心地良いです。
走り出しはモーターにより静かに力強くも、踏み込むとエンジンと相まってかなり強烈な加速も可能です。今回のマイナーチェンジではトランスミッションの制御も進化しているとのことで、変速のスムーズさは増していると感じます。減速時に旧モデルでは感じた一定の減速度を保ちたいシーンでも、不自然感はありませんでした。
気になる乗り心地の部分では、あまり整備されていない市街地などでの路面の凹凸でも当たりが柔らかになっており、快適に感じます。今回の変更点であるバネレートは低くする方向で、それも、マイチェンでは普通やらないだろうってくらいの大幅にバネレートを下げたんだそうです。その分、ダンパーの減衰力を上げて、突き上げをソフトに受け止め、しっかりとその後の振動を抑えるという方向なのだそうです。
かといって、ワインディングですごくロールするようなシーンもなく、峠を攻めるほどの速度でない一般の走りでも十分にスポーティSUVの走りを感じさせてくれました。テストドライバークラスの運転スキルが非常に高い人レベルだと、旧モデルに対しステアリングの応答がほんの少し遅れる場面もあるとのことですが、そんなことは僕には微塵も感じられません。ナリはデカいのを忘れるくらいに、十分に走りを楽しむことができるSUVだと思います。
ノンハイブリッドは素直さが美徳
次に試乗したXD Exclusive Mode(試乗車オプション込み価格479万500円)は、パワートレインとしては1台目からのハイブリッド抜き、すなわち3.3リッターディーゼルターボの四駆です。モーターが介入しないので、走り出しも減速もごく当たり前に走ってくれます。というか、静かに走り出したいとか、プラスアルファの加速感を求めないなら十分以上のパワーユニットです。とは言え、排気量3.3リッターにターボが付いているわけですから、不足があるわけはないでしょう。モーターアシストがないので、ハイブリッドの複雑な働きが気になる人にはこちらが良いかも知れません。
足回りの基本は、ハイブリッドのプレミアムスポーツと同様とのことですが、フロントに乗っかるパワーユニット関連で、およそこちらのノンハイブリッドディーゼルは約70kgほど軽く、その分、かなり軽快に向きを変えたりコーナリングすることが可能になっています。車重が軽い分、直後に乗り比べるとその分バネ定数が車重に対して大きめ(バネの反発力が大)に感じるのか、ちょっとアタリが強く感じるかも知れません。それだけスポーティに感じると思う人も多いでしょう。好みの問題かな〜。
XD SPの「硬い」キャラクターはお好み次第
次は、今回のマイナーチェンジで追加されたXD SP(試乗車オプション込み価格433万4000円)グレードに乗ってみました。2WDモデルです。FRです。
XD SPは、SPがスポーティの略かどうかはわかりませんが、少なくともスポーツをイメージさせたくてSPとしているはず。かつ、CX-60ラインアップの中では比較的低価格帯モデルをベースに20インチタイヤホイールなど、見た目にもスポーティさを盛り込んだモデルです。
そういうキャラクターを考えると納得いくような足回りの硬さを感じさせます。しかし、個人的に年齢的に自分にはちょっと硬すぎかな、と感じました。車重は先程のエクスクルーシブモードよりさらに70kgほど軽いとのことで、動きなどは素直で好ましいので、硬さが気にならない人には良いと思います。僕は気になりますが。けれど、試乗した別のかたのコメントでは、XD SPがイチバン良いというかたもいらっしゃったとのことです。
結局のところ、車はすべての人を満足させるってことは無理ってことですね。だからこそ、選ぶのがイチバンの楽しみとも言えると思います。
最初に書いた初代プリウスのエピソードはそういうことなのです。量産車である以上、ある程度のパイを狙った設定になくてはならないのですが、最近その狙わねばならない数が大きいような気もします。個性を出しすぎると矯正を余儀なくされる。人間と同じですね。
そういう目線でも、CX-60は応援したい。FRの直6なんて、少なくとも日本車では新しく出てこないと思います。そのためにもマツダには今後もCX-60のブラッシュアップを続けて欲しいものです。いまのところCX-60は、正常進化していると言えます。ある意味、安心しました。
ちなみに、CX-80にも乗ってみました。事実上、CX-60の3列モデルがCX-80ですが、やはりその長さや重さを感じ、軽快感に相当な違いを感じます。「3列目も無いよりはあったほうが良いかも?」くらいでは選ばないほうが良い気がします。3列目を使いたいいざというときは、カーシェアでミニバンを借りるほうがよろしいかと思いました。
(文と写真:小林和久)
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