様々に試みられてきた「石油」を作る方法
しかし「液体炭化水素」燃料の問題は、その「燃料」を精製する原料を、化石になって地中に蓄えられていた様々な「原油」–じつは自然が作り出したものだけに、採掘される場所によって組成、特質が異なるのですが–に頼ってきたこと。何億年か前に生きていた微生物などの堆積物が地層の中で変化し、炭化水素–これも化学的には様々な種類があります–になって、その液体成分が原油、気体成分が天然ガスとして採掘されるようになった。当然、埋蔵量には限りがあり、どうやらすぐにも…ではなさそうですが、このままではいつか「原油がなくなる日」が来る。
その本当の意味での石油危機は未だ現実として迫ってきてはいませんが、それよりも切実に、今、私たちが直面しているのは、地中に“固定されていた”炭化水素を、その中でも炭素を掘り出して燃やすことで、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を刻々増やしている。これが、地球温暖化を引き起こす要因としてクローズアップされているわけです。それとは別に、ですが、原油を原料にして作られる合成樹脂の大量使用をも、別の環境影響を生んでいます。
化石燃料であることが、原油の利用による様々な問題を生んでいる。ならば、炭化水素燃料を、CO2 を増やさないように作って、使えばいい。今日の科学と工業を、知力と物量の両方でフル活用すれば、それはかなりのところまで可能なのです。
水素や分子量の小さい炭化水素、たとえばメタン(CH4)と水を反応させて、液体の炭化水素を作ること自体は、かなり前から実用レベルになっていました。たとえば第二次大戦末期、北海原油が入手できなくなったドイツは、石炭は国内で取れるのでそれを高温で蒸し焼きにすると得られる石炭ガス(一酸化炭素と水素の混合物。日本でも天然ガスが大量に輸入、利用できるようになる前は、家庭用ガスをこの方法で作っていました)と水を、触媒を介して反応させることで、炭素原子がつながって、そのそれぞれに複数の水素分子が付く、という「炭化水素の鎖」を作る。ここで炭素原子が7、8、9個と連なれば、原油を蒸留して取り出す燃料油の主成分と同じものになります。そこに何種かの添加物を加えてブレンドすれば、ガソリン、軽油、灯油と同じものになる。大戦末期のドイツでは、こうやって燃料油を作る大規模な工場を建設、稼働させて、その液体燃料を使って軍用機(すでにジェット・エンジンで飛翔する戦闘機、爆撃機も実戦化していました)を飛ばし、戦車などを走らせていたのです。
写真:Engineering and Technology History Wiki,luftwaffelovers
この時使われていた触媒を使う製法は、2人の開発者の名前を取って「フィッシャー=トロプシュ(Fischer-Tropsch)法」(FT法)と呼ばれています。
近年でも、ヨーロッパのオイルメジャー、たとえばシェルなどは、天然ガス(主成分はメタン)をその採掘現地でこの方法を使って軽油を製造、液体の状態で消費地まで運んで、実際に市販するディーゼル車用燃料(軽油)にブレンドして販売しています。2000年代半ばのル・マン24時間レースではアウディとプジョーのプロトタイプ・スポーツカーがともにディーゼル・エンジンで走る、という対決が演じられましたが、この時期にその燃料を全量提供していたシェルから「天然ガスから化学合成したディーゼル燃料を供給している」という報道発表がありました。
余談ですが、日本は天然ガス(主成分メタン)を大量に輸入していますが、採掘現地で圧縮・冷凍サイクルを繰り返すことで液化させ、その状態、すなわち液化天然ガス(LNG)として専用タンカーで運んできます。メタンが液化するのはマイナス160℃以下なので、赤道付近も航行してくる中では沸騰して気化し、膨張する。このガスは大気中に放出しながら日本まで運びます。
最近になってそのLNG船の動力源であるディーゼルエンジンで、主燃料である重油と並行して燃焼させられるようにした「バイフューエル」方式のものが一部で実用化されていますが…。
こうやって採掘・液化・輸送してきたLNGを、海沿いにある発電所に着岸したタンカーから一時貯蔵タンクへ、そこから発電のための燃焼器へと送り込む、という使い方を、日本ではしているのです。<続く>
写真:Shell
(両角岳彦)