ポルシェも人造ガソリンに着手している【自動車のCN化-その真実_全てBEVになる日は来ないvol.09】

日本企業も合成燃料の製造参画へ

ここで発想を転換します。二酸化炭素、すなわちCO2と水、H2Oがあれば、その炭素と水素を反応させることで「炭化水素の鎖」を作れるはず。単純に考えれば、炭素Cと水素Hを取り出してまずメタンCH4を作れれば、そこからFT(フィッシャー=トロプシュ)法でガソリン、軽油、灯油、さらに炭化水素の鎖を伸ばせば舶用ディーゼルエンジンが使う重油まで、各種の液体炭化水素燃料が作れるはず。ただこのプロセスで問題なのは、燃焼という化学反応によって生成したCO2の、炭素と酸素の結びつきが強固なこと。科学としては還元反応を起こせばいいわけですが、この結びつきを“切り離す”にはそれなりのエネルギーが必要で、ここがひとつ技術開発のポイントになっているはず。熱を加えればより簡単に切り離しができますが、そのためには400℃以上まで温度を上げる必要がある、というのがこれまでの定説で、そこに何らかのエネルギー投入が必要になります。再生可能エネルギーだけでは、この熱生成は難しい。もちろんそこにブレークスルーの、技術革新の可能性があるわけですが。
そこでもうひとつのアプローチ。CO2と水からいったんメタノール(メチルアルコール)を作ります。こちらの方がエネルギー投入が少なくて済む。アルコールは、炭素Cと水素Hと水酸基OHの化合物ですから、それを科学的に処理し、例えばCとHを含むガスの状態にすると、そこから炭化水素を作ることができます。ちょっと説明が大雑把ですが。

カーボンニュートラルとなる液体炭化水素燃料の合成プロセスのイメージ。原材料の一方である水素は、水力や風力などの自然起源・再生可能エネルギーで水を電気分解して作る。一方、炭素はCO2から取り出す。ここでは大気中のCO2を補習する(DAC:Direct Air Capture)をイメージしているが、空気中にはごくわずかしかないので技術的にもコスト面でもかなり難しい。当面は火力発電所や製鉄所などの”固定発生源”で捕集・分離したものを使うのが論理的かつ現実的。そこから化学的プロセスで「炭化水素の鎖」をつないで、ガソリン、さらに鎖の長い軽油などそ合成する手法は複数ある。そこに使う電力も再生可能エネルギーから。また必要な熱は反応に利用した後、回収利用することでプロセスのエネルギー効率を高める。
図:Audi

このメタノールを介した液体炭化水素燃料の製造に取り組んでいる企業のひとつが「HIFグローバル」社。元はチリに設立されたベンチャーで、南米大陸の南の端、強風で知られるマゼラン海峡にも近いハルオニの原野に風力発電施設を作り、その電力を使ってメタノール・プロセスでガソリンと軽油(と、もちろんメタノールも)の製造を計画しました。

チリ発のベンチャー企業、HF Globalが南米大陸の南端近くの”HaruOni”に建設したCN燃料合成のパイロットプラント。3.5MW級の風力発電機を設置、しかし周囲にはその電力消費地はない。こうした自然エネルギーが豊富だけれど大量消費地からは隔絶した場所にプラントを建設すればいい。この電力を使って水の電気分解を行うとともに、その水素をCO2と反応させてメタノールを生成(CO2分解→メタン生成よりもエネルギー消費が少ないとのこと)、それをさらに反応させることでガソリン、軽油を作る。もちろん水素、炭化水素ガスを製品化することも可能。2022年12月には最初のガソリンを製造。その後、連続的に稼働している。
写真・図:Siemens Energy

そこにドイツの重工業企業、ジーメンスのエネルギー部門、そして自動車メーカーのポルシェが出資して、2022年の12月には試験生産開始。2024年にはドイツ国内で開催されるポルシェ911によるワンメイクレース「カレラカップ」全戦に、このハルオニで作られたガソリンの供給を開始しました。
同様の燃料製造プラントは、アメリカのテキサスと、オーストラリアのタスマニア島にも作られて、このCN燃料製造企業は世界規模への展開を始めています。<続く>

Haru-Oniプロジェクトの株主であるポルシェは2024年から、同地で製造した”e-ガソリン”をヨーロッパに輸送、F1グランプリのサポートレースとして行われる同社の911GT3カップカーだけが走るワンメイクレースの「スーパーカップ」シリーズの燃料として使用している。2025年には全8戦、各32台の参加車両のために5万ℓが供給された。
写真:Porsche

(両角岳彦)

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