自動車とCN_vol04

CO2が燃料になるのは夢物語ではない【自動車のCN化-その真実_全てBEVになる日は来ないvol.10】

合成燃料はリッター200円を目指す

そして日本では、2023年4月に石油元売の出光興産が、HIFグローバル社と「合成燃料分野における戦略的パートナーシップに関するMOU(基本合意書)」を締結。その半年ほど前に同社の経営陣がオーストラリア関係の会合でタスマニア島でのプロジェクトについて知らされたことから動き出した話だそうです。同年10月にはエネオスもHIF-G社と「合成燃料の協業に関する覚書」を締結し、これで2社を合わせると日本の石油製品シェアの7割を占める元売トップ2社が「再生可能エネルギーを使った合成燃料の製造」に参画することになったわけです。出光興産は2024年4月にはHIF-G社に出資(この時点で177億円)。同年8月にはこの出資に関して独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との共同出資体制を取ることが決まりました。
これら一連の動きが、日本でも「炭化水素液体燃料をCO2から合成する」ことに乗り出すのを意味する、と理解して伝えたメディアは残念ながらありません。
さらに出光興産としては、2030年を目標に、同社の苫小牧製油所にHIF-G方式のプラントを建設、そこからの製品をまずは市販ガソリンに混入する方向、とのこと。この苫小牧地区には隣接してJ-POWER(電源開発)北海道の火力発電所があり、そこで排出される二酸化炭素ガスを捕集して地層の中に送り込んで貯蔵するCCS(Carbon co2Dioxide Capture and Storage:CO2分離捕集・貯蔵)の大規模実証試験が国のプロジェクトとして進められています。つまりすでに、炭素系燃料を燃やして発生するCO2 を、大気中に排出せずに再利用する下地がある。地中に“埋め戻す”より、捕集したCO2から燃料を作れるならそのほうがいいはず。ですから、こうしたやり方がこれからの大きなトレンドになっていくことは間違いないし、そうしなければならないのです。

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“Haru-Oni”プロジェクトには当初からジーメンス・エナジー、ポルシェのドイツ企業が出資。いまやHF Global社はその名のとおり世界規模のビジネスを展開するに至っている。2022年の稼働後にようやく日本の産業界に情報が伝わり、出光、さらにENEOSも提携に動き、公的機関による出資に至った。この図は出光が描いた、再生可能エネルギーの豊富な場所へ捕集したCO2を送り(液化、固化=ドライアイスは比較的容易)、そこで合成した液体燃料は一般的なタンカーで日本を含む消費地に輸送する。
図:出光興産

2025年に大阪で開催されていた万博では、大気の中にあるCO2 を“捕集”して、そこから炭化水素液体燃料を合成する設備が設置・運用されていました。「現状では製造量が少なく、コストも非現実的」とのコメントもあるようですが、これは会場上空の空気を取り入れてそこに含まれるCO2を抽出しているから、に他なりません。大気中に含まれるCO2の平均濃度としては400ppm以下だったものが1年に3ppmを超えて増加するようになったことが「温室効果」を加速している、と問題になっている。そういうレベルです。「ppm」は「parts per million」の略、つまり「100万分の1」。「%」(per-cent)は「100分の1」。ということは1ppm=0.0001%で、大気中のCO2 平均濃度は0.04%。これを抽出しようというのが「DAC」(Direct Air Capture)で、それが大変で、今後の開発が必要、というのは理解できます。それを待つのではなく、炭素系燃料を燃やしてエネルギーを取り出し、CO2を生み出しているその「現場」で、排出ガスに含まれる“濃い”CO2を抜き出すことが、今すぐにできることだと考えられるのです。
つまり、例えば各種の炭素、炭化水素燃料を燃やす火力発電所、そして製鉄所の、とくに石炭を蒸し焼きにしたコークスを大量に使って酸化物である鉄鉱石を熔解し酸素を還元して銑鉄にする「高炉」など、その成り立ちからどうしても大量のco2を発生する場所で、排出されるガスの中に極めて濃い濃度で含まれているそのco2を捕集する。これで局地的にco2を大気中に放出するのを抑制できます。先述したCCSも、そうやって得たco2を地層の中に封じ込める手法ですが、それを次に作る合成炭化水素燃料の「原材料」にする。これで例えば、co2排出量が多いとして排除が主張されている石炭火力発電も、その非難から抜け出し、これからも有効な電力供給源として使っていくことができるはずです。

この近い将来に向けたストーリーは、夢物語のように思えるかもしれません。でも人間社会が消費する膨大な量、しかも需要が刻々と変動する電力の全てを、自然エネルギーによる発電だけでまかなおうとするのも、後で整理するように、相当な「夢」なのであって、それよりはむしろ現実的、技術開発と実用化にそれなりの知恵と資金を注ぎ込めば、近い将来には実現可能な夢だと考えられます。
ここでもう一点、これからの時代、ヒトという種が地球という環境と共存していくための鍵は、直接使うエネルギーについても、そしてまた自動車という移動の道具の動力源も、それに応じた使い分けも、全ては「多様化」に向かう。そうせざるをえないところに、私たちは今、立っているのです。

こうして大気中に放出される手前で捕集されたco2を使って合成された液体燃料は、その成分がガソリンや軽油、灯油、あるいはアルコールのどれでも、これまでも使ってきた“普通の”タンカーで運べます。輸送手段もそのための設備も、既存の石油系インフラがそのまま使える。一方で「原料」となる二酸化炭素のほうも、圧縮しつつ冷却すると31.1℃で液化し、さらに5.2気圧、マイナス56.6℃という条件でご存じのドライアイス、つまり白く固まった固体状態になります。これも大規模に運ぶのがやりやすい形態です。
そこで日本にとってはまず、海外で再生可能エネルギーが大量に、安定して使える場所で作った合成液体燃料、すなわちCN燃料を輸入することが有力な選択肢。出光興産もそこに取り組む計画を並行して進めるそうです。一方、日本で発生・捕集したco2を、そうした大規模な合成燃料製造の現場へと輸送することも必要になります。この場合、co2の“輸出”と合成燃料の“輸入”の相関でco2排出量をどう計算するかについては、相手国との間でニ国間協定を結ぶ必要がある、とのことです。もちろん、国内にも適地を探して燃料合成設備を増やしていく。例えば風力発電施設は建設も保守も難しいし、風がなくても、強すぎても発電ができないし、風の変動がほぼそのまま発電量に現れます。風力に限らず太陽光も、一定の発電量を維持することができないものなので、大量の電力を時間とともに変動しながら消費する一般社会向け電力網との相性は良くない。でもその発電の現場かすぐ近くで、この燃料合成などモノを作るのにダイレクトに使えば、電力がある時に作ればいい。つまり変動しつつ発電した電力を別の形で「貯蔵する」ことになるわけです。
こうして「再生可能エネルギーで作った合成燃料」が量産されるようになる。そこで気がかりなのは「価格」です。製造コストは、こうした工業製品の場合は言うまでもなく、設備が大規模に数多く作られ、生産量が増えれば低下します。そしてその時々の需要と供給の関係で頒価は決まっていきます。現段階では色々と考え、条件を組み合わせて“試算”してみた数字があるだけですが、2024年時点で資源エネルギー庁・合成燃料研究会が行った試算によると、国内である程度の“量産”が始まった段階(2026-27年と想定される)では1ℓあたり700円とまだまだ今のガソリン価格よりはかなり高く、しかしそこから加速度的に生産量が増えれば2030年には1ℓあたり300円。2050年には1ℓあたり200円まで低減すると予測されています。これなら2024-25年のガソリン市販価格、それも日本国内だけでなくヨーロッパなどの価格にほとんど近づくことになります。ただし日本の場合、その価格には約54円の税金が含まれているわけですが。カーボン・ニュートラルな燃料になった時には税金も大幅に軽減されるべきでしょうし、そう期待しておきましょう。

他にもその名もずばり「Carbon Neutral Fuels」など、インターネット検索をしてみるだけでも、いくつかのベンチャー企業がこの分野に乗り出してきていることがわかります。ここでちょっと気になるのは、先ほど「天然ガスからの合成軽油」の話で出てきたシェル、あるいはエクソン-モービルなど、いわゆる「石油メジャー」がこの種のCN燃料開発・量産化についてまだ特段の情報を公開していないこと。
しかし百年(以上)にわたって栄枯盛衰を繰り返しつつ石油産業を支配してきた彼らが、この状況に直面しつつ何もしていないとは考えられません。事業化して今の原油起源燃料と徐々に置き換えて行くところで採算が十分に成り立つ。それが明らかになったところで、今やっている開発を一気に公開する。その可能性は大きい、と読んでおく必要があるでしょう。もしかすると、2023年春に欧州政界のなかで「全てをBEVへ」から「CN燃料を使うICE車ならOK(燃料を変えるだけで全てのICE車が当てはまる)」へ、政策の“どんでん返し”が起こった裏には、石油メジャーからの働きかけが、とくにCN燃料量産化の道筋が提示されたからでは?と勘ぐりたくもなるのです。<続く>

(両角岳彦)

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