NHK新プロジェクトXで電動アシスト自転車の発明者を初拝見してスッキリ
NHKの人気番組だった「プロジェクトX」は高度経済成長からバブル期くらいまでの様々なプロジェクトを取り上げた番組でした。大人気だったと思っていたのが、突然終了になったように思えてましたが、いまさらながらWeb上だけで調べてみると、ネタ切れ気味だったことに加え、次第に表現が大げさになったりヤラセに近いものが増えてきて、最終的にはとある高校を紹介するときに「荒れ果てていた」という紹介が決定的だった、という見解がいくつか見られました。
あの番組では自動車も多く取り上げられましたが、その中で出演されたかたをとある雑誌のために取材したことがあったときに言われたのが、「(プロジェクトXのように、取材を受けた)私たちだけで作ったのではない表現でお願いしますね」といったニュアンスのことを言われました。
確かに、自動車はアイデアを思いついた人から、量産して世界中のユーザーに届けて、壊れたときのことも考慮しつつ、中古車や廃棄・リサイクル処分まで面倒見る人がいなきゃならないビジネスですので、例えば誰か一人がカッコいい車を作ったんです、みたいな話はまとめやすいけど違っているとも言えます。余談ですが、出版の世界でも「あの本を作ったのは俺だよ」という人が何人もいる雑誌をいくつも知っています。笑 まあ、思い付いて創刊する人と、それをじっくり作り上げ軌道に乗せて作り続ける人では、それぞれ得意分野が違い両方居て然るべき、という気がします。
それはさておき、旧プロジェクトXのほとぼりが冷めたのか、再開の要望も大きかったのでしょう。「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」というの番組が何度か放送され始めています。シン・ゴジラ、シン・ウルトラマンなどと同じようにシン・プロジェクトXと表記してもよかったかもですね。
2024年10月19日初回放送の新プロジェクトX「革命の自転車 つなげ、感動のバトン〜電動アシスト自転車〜」は、ヤマハ発動機が1993年に発売開始した世界初の電動アシスト自転車「YAMAHA PAS」がテーマでした。
ヤマハPASについては、2023年が生誕30周年ということで、クリッカーで取り上げさせていただきましたが、その際に、アイデアを思いついた人、それを製品化させた人はもちろん、当時を知る人はみなさんOBになっていて、時間の成約などもあり、上手く取材することができませんでした。それが、新プロジェクトXでは、見事に追い掛け、ご出演にまで至ってらっしゃいました。さすがNHK! その取材対応を担当した人もだいぶ大変だったようですが…
前置きが長くなってしまいましたが、その新プロジェクトエックスの中で、電動アシスト自転車を思い付いたと言われるヤマハ発動機事業開発室主任(当時)の菅野信之さんは、途中でパスの開発から外れてしまうと言うストーリーになっています。このお話は、我々も取材時にお聞きしていました。そして菅野さんは自ら新しいプロジェクトを始めたそうですが、まさにそれが電動車いすだったわけです。このお話はぼんやりとお伺いしていたのですが、この番組ではっきりそう明言されていたので、自分の中でスッキリしました。電動アシストを思い付いたかたについて、だいぶ個性的なかただったらしいと以前からお聞きしていましたが、テレビで菅野さんを初めて拝見し、なるほどなぁ、とその点も納得しました。
その時系列の関係からお分かりの通り、電動アシスト自転車と電動車椅子は同時期に開発が行われていたわけで、1993年11月にPASがデビューしますが、その2年後の1995年11月にはヤマハ発の車いす電動化ユニット「JW-I」が静岡及び神奈川と限定的ではありますが発売されます。しかし、これは動力のない車いすを電動化するだけのもの。乱暴に言えばプラモデルのディスプレイモデルにマブチモーターと乾電池を搭載してモーターライズ化したようなイメージ。電動車いすと同じように手動の車いすを「アシスト」する電動車いす補助ユニット「JW-Ⅱ」は翌1996年11月に誕生しています。これこそが、PASの開発を途中で離れても菅野さんの出したかったヤマハらしいユニークものだったのではないかと想像します。
電動アシスト車いすのバリエーションとしては、2001年3月に介助者の押す力を電動アシストする「タウニィパス」というヤマハのバイクと自転車が入り混じった名前の製品をリリースし、「JW-Ⅱ」は2013年にフルモデルチェンジして車いす用電動アシストユニット「JWX-2」が発売となります。
僕はその「JWX-2」ユニットを搭載した車いす完成車「JWスイング」の発表会で電動アシスト車いすを初めて知り、わずかですが試乗して「こんなものがあったんだ!」と驚きました。その時のモデルの坂井裕美さん、とても可愛かったです。いまでもご活躍ですかね。
電動アシストユニットは、車いす用電動ユニットの1年後に新型がデビューしてますので、来年アシストユニットの新型が出るのではないでしょうか。また新たにヤマハらしい世界で唯一のユニークな製品となっていることでしょう。
新型は車いす利用者の「旅行」まで考慮したことに感動しました
お話がアシストタイプの電動車いす中心になってしまいましたが、スティックタイプの電動車いすの新型については、モーターの出力アップでタイヤ軸トルクを片側25.3Nmから50.1Nm、耐荷重量も125kgから160kgへと高め、基本性能HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)部分が大きく進化したことや、世の中のバッテリーそのものは10年前とは比べ物にならないほど進化しているのにともなったアップデートによる小型軽量化。
そして、充電器本体とバッテリーをセットするためのクレードル部分が分離したのもちょっとした大きな進化。
この充電器をクレードルと分離したことによって、車載状態で充電器と車いすの充電口を接続すれば充電できるようになった。従来はクレードル一体型の充電器だったので、旅行の際など一回り多いな充電ユニットを持ち運ぶ必要があったものを、充電器本体と接続コードだけの携帯で出先での充電を可能としたといいます。
これを聞いて、一般的な旅行者の話であれば、荷物が少なくなって便利ですね、というだけのことだが、車いすを必要とする人はどうしても外にでかけるのが大変なことが多いはず。そんな人々の旅行のことをヤマハの人たちは考えて開発しているんだ、ということに感動しました。きっと、そういった積み重ねのおかげで、少しずつでも外へ出ていく車いすの人が増えているのではないでしょうか?
ヤマハは「人機官能」という開発思想を持っています。人と機械が一体になって動き、感動を生む、といったニュアンスで理解していますが、車いすなどの補装具こそ、人の一部となって働いてくれる機械。どういう生活シーンでどのように役立つのか、便利になるのか、を本当に考えて開発を行っているんだな、と感じました。
(文・写真:小林和久)
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