日本のヤマハが発明した電動アシスト自転車
電動アシスト自転車は、日本において発明された乗り物だと知ってますか? 1993年、ヤマハ発動機(以下ヤマハ)が「ヤマハPAS」として発売したのが世界初の電動アシスト自転車でした。
ヤマハは、御存知の通り、バイクのメーカーとして知られています(楽器のヤマハ株式会社からバイクを製造するため1955年に分社し創業)が、その中から生まれた新しい乗り物として登場したのが電動アシスト自転車「PAS」だったのです。
「パスパスパスっとヤマハパス〜♪」というCMソングが頭にこびりついたのはてっきり子供の頃かと思っていましたが、どうやら新人類と言われる社会人になった少し後、バブルが弾けたことに気付き始めた頃だったようです。
さて、電動アシスト自転車といえば、なんとなくママチャリのカタチが思い浮かぶ人も多いと思いますが、ヨーロッパではすでにマウンテンバイクなどスポーツタイプの電動アシスト自転車が主流になっているといいます。そんな欧州では、電動モーターの入った自転車全般をeBikeと呼んでいるようです。
ヤマハでは、1970年代から小型エンジンを搭載した自転車などの研究は始めていたそうですが、その後にPASとなって登場する元になったバッテリーと電動モーターにより、ペダルの力をアシストする方式の開発がスタートしたのは1988年4月のこと。これからの新しい乗り物を目指しながら、自転車に乗るのと同じ感覚で運転できるものを目指します。
そこで、違和感なくモーターが脚力をサポートするメカニズム、製品としての開発はもちろんですが、警察庁や運輸省(現国交省)との交渉により、原動機付自転車ではなく、路上では自転車と同じ扱いにしてもらえるようなルール作りに奔走したのだそうです。そうやって、世界初の電動で人力をアシストする自転車は、1993年に「PAS(Power Assist System)」として誕生したのです。
ヤマハ発動機は、ボートや船外機なども製造・販売しているのはご存知かと思いますが、実はそれを運転するための小型船舶免許のルールなどを作ったのも同社なのです。かつて、機械化の進んでいない国々へ船外機を普及させるため漁業の方法をレクチャーしていった歴史もあります。楽器のヤマハ株式会社がピアノを普及させるため音楽教室も同時に行なっていたことと原点は同じことなのかも知れません。
誕生から31年目となる2024年、ヤマハのスポーツタイプ電動アシスト自転車「YPJシリーズ」の中核モデル「WABASH(ワバッシュ) RT」「CROSSCORE(クロスコア) RC」が2024年モデルの新型となり登場したので紹介しましょう。
ワバッシュもクロスコアも、2022年に電動アシスト自転車のパイオニアとしてヤマハがスポーツタイプへの裾野を広げるべくして登場した。ワバッシュはオフロードもオンロードも楽しめる、クロスコアは平日の通勤も休日のお出かけもこれ一台でというコンセプト。
今回のモデルチェンジのキモはなんといってもeBikeの心臓部とも言えるドライブユニットが新型の「PWseries S2」となり、コンパクトながら最大トルクをアップさせたこと。また、オートマチックモードでのアシスト制御がアップデートによりより自然なフィーリングとなり、それにカラーリングの変更も行われています。
まずは、ワバッシュRTに乗ってみます。
フレームサイズがS、M、Lとあり、身長168cmの僕はMサイズをセレクト。サドル高さは、ハンドルに取り付けられたレバー操作で、オフィスチェアのように簡単に上下させることができます。その時の気分や走り方によって、乗車したまま調整が可能なのは嬉しい装備です。
ハンドルはドロップハンドルの下側が広がったフレアハンドル。僕らが子供の頃にあったドロップハンドルは垂直に降りたものでしたが、最近の流行りのようです。
自転車のハンドルは60cm以下?
ちなみに、自転車のハンドル幅のルールはご存知でしょうか? 自転車は軽車両(道路交通法2条1項11号によると、自転車、荷車、人力車、馬車等、そり及び牛馬を含み、小児用の車を除く)ですので、元来基本的には車道を走るものです。しかし、場所によっては歩道を走ってもいいですよ、という場合もあります。その条件として、ハンドル幅の規制があります。
そのルールがハンドル幅は60cm以下であること。ただし、これはすべての自転車に規定されているのでなく、歩道を走る場合のルールです(ハンドルの幅と言ってますが、本当は自転車の幅でしょう。事実上、ハンドルが一番幅広いし、広くしたいとすればハンドルなのでしょう)。
そこで、ワバッシュは幅580mm、クロスコアは幅590mmとなっていますので、自転車走行可能となっている歩道も走ることができます。しかし、YPJシリーズの最高峰であるYPJ-MT Proは幅790mmもありますので、どんな歩道でも走ってはいけません。
あまりにも自然なワバッシュの走り
ワバッシュRTの電動アシストモードをオートにして走り出します。極自然な感覚、電動アシストのありがたみを大いに感じるというよりも軽い自転車に乗っているような感覚でしょうか。
舗装路から、オフロードに入ってみます。特になんの変化もなく、進むことができますが、試しにここで、アシストをオフにしてみましょう。
うおー! こんなに抵抗ある道を走っていたのか!! ギヤをロー側にしないとこれは走れません。というか、こんな場所、普通の自転車で走れないでしょう。
あまりにも自然なアシストに、電気のパワーに助けられているのが気付かないほどでしたが、悪路でのその恩恵は多大なものだったのがわかりました。以前、YPJ-MT Proにマウンテンバイクコースで乗ったことがありますが、その時には登り坂をグイグイ走る感覚が新鮮でしたが、今回はむしろその自然さに驚きました。
恐らく、例えばクルマで入れないような林道や山道を、バイクのようなエンジン音もなしに、鳥のさえずりや川のせせらぎの音を耳にしながら、ゆっくりと自然に溶け込んで景色を楽しむ。そんな使い方ができるのは、eBikeだからこそでしょう。
まさに毎日ノリたいクロスコア
次にクロスコアRCに乗ってみます。
こちらは舗装路メインで走りますが、フロントのサスペンションがいい仕事してくれて、「365days,1bike」というコンセプトどおり、いつでもどこでも乗っていられる感覚がわかります。
ちなみにワバッシュと同じオフロードも走ってみましたが、パワーアシストに関しては同様の走破性を見せてくれました。サドル高さを頻繁に変えるわけでないなら、クロスコアでも十分に楽しめそうです。
さらに、クロスコアにはYPJシリーズ初のコネクテッド機能を搭載したモデル「CROSSCORE Connected」も登場しました。
こちらは、様々な操作が行える2.8インチカラードットマトリックスディスプレイを搭載し、ヤマハが開発したアプリ「YAMAHA e-Bike Link」と連携することで、メンテナンス情報やバッテリー残量など、自転車の状態を乗っていなくても直接伝えてくれるもの。また、走行ログや消費キロカロリーなども蓄積できるので、ダイエット目的の人にもいいかも。
聞くところによればeBikeは、電動アシストのお蔭で人間が発揮すべき力が一定に近くなり、負荷があまり変わらない有酸素運動を連続して行うことができるため、負荷変化の大きな自転車よりもむしろダイエットに効く、と言われているそうです。そう聞けば試したくなる人、多いんじゃないでしょうか? 「eBikeダイエット」が流行語大賞になるかもしれません。
自然を感じながら、効果的な運動にもなる。現代人が求めている余暇の過ごし方に打って付けのアイテムがeBikeだと思います。ぜひ、「これまでになかった新しい乗り物」と思って乗ってみることをおすすめします。
●メーカー希望小売価格(税込み・いずれも2024年10月9日発売予定)
WABASH RT:46万3100円
CROSSCORE RC:34万1000円
CROSSCORE Connected:36万6300円
(文・写真/小林和久・ヤマハ発動機)
コメント