貴重な偶数年のモーターショー
東京モーターショーは、1954年に日比谷で開催された第一回「全日本自動車ショー」が、その前身。1964年には、翌年4月に予定されていた乗用車の輸入自由化を見据え、海外メーカー3社が出展することを機に正式に「東京モーターショー」となりました。1973年までは毎年開催され、オイルショックなどの影響で1974年をお休みし、1975年から2年に一度のペース、西暦で来数年に開催されてきましたが、2000年、2002年、2004年の偶数年3回だけは、商用車ショーとして開催。ですが、その後もまた奇数年の各年に東京モーターショーは、2021年のコロナ禍による影響での中止を除き、開催されてきました。
2023年、東京モーターショーは、ジャパンモビリティショーと名前を変えて開催されました。そして、偶数年である今年2024年、「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」として開催されました。CEATECと併催となった今回、奇数年のモーターショーをイメージしていたら、随分とこぢんまりしたものに見えますが、スタートアップ企業の出展、そしてその企業や業界大手との接点を作って繋ぐというコンセプトは意義ある試みだったでしょう。もし繋がって人たちがいたなら、その後のプロジェクトの展開など聞いてみたいものです。
さて、そんなジャパンモビリティショービズウィーク2024ですが、もちろん、自動車メーカー系も出展してます。その中で目に付いたのが、内燃機関の展示が多かったことです。CEATECと言えば、機械系のモーターショーに対し、電気系展示会の祭典なイメージです。そこで、機械モノも負けてないぜと言わんばかりです。
インドのワゴンRは神聖なうんちで走る
一番興味深かったのは、牛のうんちで走るワゴンR。
スズキは、マルチスズキとしてインドで強いシェアを持っており、インドで牛は神聖なものなのは周知のとおり。その牛のうんちからメタンガスを発生させて、それをエンジンのガス燃料として使用するというもの。牛はもちろん食用で飼われているのではなく、多くは乳牛として飼育されているのだそうです。
昨年のJMS2023に展示されていたが、今回始めて予約詳しくお話を聞くことができました。そもそもインドでは、既にガソリン-CNG切り替え型バイフュエル車が走っており、マルチスズキでのCNG車のラインアップは15モデル、そのシェアは7割にもなるのだそうです。
このCNGの代わりに牛のうんちからメタンガス=バイオガス(CBG)を発生させ、カーボンニュートラルを目指そうというもの。そもそもメタンガスはCO2の約28倍もの温室効果の原因と言われており、単にCO2発生を抑制するよりもその点でさらに効果的でもあるそうです。
今回展示されていたマルチスズキ・ワゴンRは見ての通り日本のワゴンRとはまったく別物。軽自動車を拡大したものでなく、プラットフォームはイグニスなどと共通なのだとか。そのフューエルリッドを開けると、注入口が2つ、ガソリンとガスのそれぞれを見ることが出来ます。また、ダッシュボード右側(インドは英国領だった歴史から右ハンドル)には、ガソリン-ガスの燃料切り替えスイッチが付いています。これら部分は特に改造したわけではなく、もともとCNG対応車の「ノーマル」状態なのだそうです。
僕はかつて、ガソリン-CNGの切替バイフューエル車には、東京ガスで試作したセドリックや、ボルボで発売していたものに試乗しましたが、ガスに切り替えた時、どうしても体積あたりエネルギー密度がガソリンに比べ低いため、トルク不足に感じられますが、このワゴンRに関しても同様ではあるものの、「途中で切り替えなければ気付かない」レベルの差だそうです。
マルチスズキでは、すでに地元の酪農業界と連携して4つのガスプラントを建設中で、発酵させてガスを発生させ終わった残りカスは有機肥料としても販売の予定だとか。神聖な牛のうんちがさらにエコノミーとエコロジーの両方を回すのに役立ってくれるって、とても理想的な循環社会と言えそうです。
藻で走るマツダ
マツダは、以前から研究・開発を続ける藻(も)によるバイオ燃料を新しいCX-80とともに展示していました。
藻由来で作り出すバイオ燃料は、分子中の炭素鎖数が比較的多く、ガソリンよりも軽油を作り出すのに適していることで、現行ディーゼルエンジンにそのまま使えるとのことで、CX-80のディーゼル車を「カーボンニュートラル車」として出展していたわけです。
しかし、このCX-80はまったくのノーマルディーゼル車。カーボンニュートラルの実現のため、車両側はまったく無改造でそのまま使用できる→実用面で有利というわけなのです。
ところで、僕は30数年前に、都内下町のとある場所で、天ぷら油の廃油を使ったディーゼル燃料を生成(精製?)している工場(「こうば」と読んでください)を見学したことがあります。その時の車両の排ガスからは、わずかに天ぷらを揚げた時のような匂いがしたものですが、最新の廃食用油由来の燃料は、改質方法がまったく違っているそうで、そんなことはないのだそうで、少し残念…?
マツダでは、藻を原料としたバイオ燃料と、廃食用油由来のバイオ燃料の2種類の燃料が今後ディーゼル機関でのカーボンニュートラル燃料としてスーパー耐久のレースでも次世代燃料のテストケースとして使われていますが、いずれも予め空気中にあるCO2を植物が取り込んで、内燃機関が元に戻すというもの。どちらも植物由来ではありますが、食べ物ではないことがポイント。とうもろこしや大豆などから燃料を作っていると、人様の食料不足に繋がってしまうかもしれないことに配慮している点も、地球だけでなく人にも優しいと言えそうです。
トヨタは最強燃料「水素」推し
トヨタは例によって水素燃料で、耐久レースに参戦中のカローラを展示。水素燃料電池でなく、燃料としてレシプロエンジンのシリンダー内で燃焼させる燃料として水素を使用する。水素を燃やすエンジンの研究の歴史は、ガソリンに代わる代替燃料として始められたと思われるが、大きな課題としては、原子番号1番であることからわかるように、水素は通常それだけで存在している時の分子サイズが世の中で最も小さい。実は、内燃機関自体の基本原理はそのままでアトキンソンサイクルで回すことができるものの、その分子サイズの小ささから水素は隙間から漏れるだけでなく、金属であろうとその素材の分子間に入り込み腐食させる。故に、燃料系を腐食に強いものにする必要があるが、貯蔵タンクは難しいものがあり、かつては魔法瓶に冷却状態で液体水素にするか、燃料吸蔵合金によって貯蔵するかと三十数年前は言われていた。これが、FCV用水素ボンベを使って内燃機関の燃料とすることができるようになわけですが、その進化具合を展示してありました。
今回、この他に、カセットボンベガスのように、家庭でも使えそうなコンパクトな水素ボンベも出展。かつてはBMWでも研究中で、僕は30年ほど前に内燃水素燃料機関搭載した7シリーズに旧JARI高速周回路で同乗したことがありますが、その時点でもいうまでもなくガソリンと変わらぬ走りを見せていましたが、貯蔵が一番の問題だったのでしょう、その後は続いている話はニュースとして聞こえてきません。気体の場合、エネルギー密度は圧力を上げるしかありませんが、貯蔵の方法はどうやら目処が見えたと言えるんじゃないでしょうか。あとは、どうやって発生させ、どうやって供給するかが構築できれば、水素は貯蔵さえできれば如何様にも使い道がある燃料と言えるでしょう。
Lean Mobility「Lean3」はi-ROADが進化して発売
代替燃料系ではありませんが、もうひとつ、気になったのが、リーンモビリティ社の小型EVのRide Roidカテゴリに属すると宣言する「Lean3」。かつてトヨタで開発されていたi-ROAD(アイロード)の言わば進化&市販バージョンがいよいよローンチされる模様です。
このプロジェクトは、トヨタ自動車でi-Roadのチーフエンジニアであった谷中壯弘さんがトヨタから独立、起業して進めてきたのだそうです。故に、i-ROAD開発で培った技術や特許などの使用もトヨタ側と話を付けてがふんだんに盛り込まれている模様。
i-ROADにはかつて試乗しましたが、とても画期的で個人的に大好きな乗り物でした。単なるパーソナルモビリティというだけでなく、走らせて楽しい乗り物に仕上がっていたのです。その走りは、ドリフトのようにテールを流しながら、スキーのようにスイスイ滑っている感覚に思えましたが、このライドロイドはそこから走行安定性を実用的に高めたもののようです。
ひとつ目のデザインと3輪車であることはi-ROADと共通で変わりないのかと思いましたが、構造的には大きく変化しています。i-ROADでは、ステアリング操作が後輪に伝わり曲がる、後輪ステアの車両だったのに対し、一般的な前輪ステア。後輪ステアでは、バックが難しかったりと、普通の人に乗りにくい面もあったのだとか。また、i-Roadはフロント2輪のインホイールモータだったのに対し、リーン3は後輪駆動となっています。
フロントサスは、アクティブサスのように、ステアリング角度、車速、Gなどのファクターから、ステアリングを切った方向にアクチュエータ制御して演算した必要量分を倒し込み、つまり内側にリーンしてスムーズにコーナリングするというもの。
車体広報のリヤウインドウがありそうな位置に見えるルーバー内には、エアコンユニットなどが取り付けられていて、i-ROADにはなかったエアコンが装着されているとのこと。
また、バッテリーはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用。リン酸鉄は、多くのEVなどに採用される3元系に比べると、体積、重量ともにエネルギー密度で劣るものの、比較的低コストで、発火の危険性が極めて低く、長寿命というメリットがあり、個人的には現実的で将来有望なのではないかと思っています。
リーン3は今後、台湾で生産し、2人乗りとしてまずは台湾で発売される予定。少しおとなになって、雨に濡れるのも嫌だしエアコンも欲しいし、という需要を狙っていくのでしょう。日本では、1人乗りのミニカー登録車として発売が計画されています。
日本では、これまでなかった乗り物が現れると、法的に無理やりどこかに当てはめるとか、どのように対処していいかわからず、結局普及を妨げてきたように思えます。交通過疎地域や高齢者の免許問題なども含め、そろそろこういった小型モビリティが定着してもいい頃かと思います。いずれにしても、乗ってみたいですね。i-ROADの楽しさをきっと残してくれているのでしょう。
日産×アカチャンホンポ「マダイルヨ」で置き去り防止
追加でもう一つ。日産が展示していた「マダイルヨ」。個人車両、送迎バス含め、昨今、幼児の置き去り事故が減少するどころか増えているようにすら感じます。マダイルヨは、日産がアカチャンホンポとコラボしてできた「イルヨ」コンセプトに置き去り防止機能を追加したもの。「イルヨ」は、例えば後席のチャイルドシートに載せた子供を、運転中の親に代わってあやしてくれるといったもの。
自動車のある生活は、人間生活をどんどん豊かにしてくれました。同時に残念ながら人間はミスをするものであり、あってはならないことも引き起こしてきました。それをまた、アイデアでカバーするのも人間故にできること。こういったアイテムを始め、技術の進化で新たなものが続々と登場し、あってはならないことを極力減らしていって欲しいものですね。
(文・写真:小林和久)
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