1990年のバブル絶頂期、ヤマハミュージックとヤマハ発動機がマリンオーディオでコラボした製品があった

浜松が生んだ楽器とオートバイ

「ホンダの2代目社長である河島喜好(きよし)さんの弟は、ヤマハの社長だった」

と言えば間違いではないんですが、「へー、ライバル会社の社長が兄弟だったなんて、アディダスとプーマみたい」という勘違いも起こりそうです(アディダスとプーマは勘違いではありません)。上記を正確に言うと、

「本田技研工業の2代目社長である河島喜好さんの弟にあたる河島博さんは、日本楽器(現ヤマハ)の社長だった」

となります。ホンダ技研と日本楽器は同業他社のライバルではありませんし、ヤマハ株式会社とヤマハ発動機株式会社は別会社です。

けれど両者には強い関係性があります。ヤマハ発動機は1955年に日本楽器からオートバイ部門が分社化した会社です。両者の製品はバイクもボートもピアノもオーディオ機器も、同じくYAMAHAブランドですので、一般にはどちらも「ヤマハを作ってる会社」となるわけですね。ちなみに河島喜好さんは本田技研工業の前身である浜松にあった本田技術研究所に入社したのは1947年なので、まだヤマハ発動機はありません。本田宗一郎さんと家が近所という御縁で入ったとか、弟が入社することになる日本楽器に入社したかったらしい、という逸話もあったようです。

ヤマハYA-1

いずれにしても、ホンダもヤマハ発動機もスズキもヤマハも河合楽器も浜松辺りの発祥だったり本社が今でもあったりするわけで、モノづくりに関しては一歩進んだ土地柄だったんでしょう。

ヤマハとヤマハのコラボは?

前置きはともかく、起源もブランド名も同じヤマハ株式会社とヤマハ発動機ですが、意外なことにコラボした商品はほとんどなかったようです。けれど、デザイン部門での交流、体験型インスタレーション「e-plegona(エプレゴナ)」の共同制作、モーターショーやモビリティショーでのヤマハ発動機ブースの音響をヤマハが担当したり、2023年のモビリティショーでは両社社長がプレスカンファレンスに登壇しました。

ジャパンモビリティショー2023でのヤマハ発動機ブースには、ヤマハ株式会社の中田卓也社長も登壇。

それに、ヤマハの横浜みなとみらいに位置する新しいショールーム「YOKOHAMA SYMPHOSTAGE(横浜シンフォステージ)」の隣りにある電動アシスト自転車を借りて体験できるショールーム「Yamaha E-Ride Base, Yokohama」の音響設備はヤマハ株式会社が担当し、シアターのスピーカーには、ヤマハ株式会社の関連会社でありテーマパークやコンサートホール向けスピーカーの世界的ブランド、フランスの「NEXO」が採用されています(詳しくはこちらhttps://jp.yamaha.com/news_events/2025/proaudio/case/yamaha_e-ride_base_yokohama.html)。

音響にヤマハ株式会社の関連会社NEXOを用いたE-Ride Baseのシアター。

近年コラボが増えているのではないでしょうか。

で、日本楽器が1897年に設立、発動機が創立して70年という長い歴史を持つ両者のコラボ製品(そもそもオートバイ初代モデルYA-1は日本楽器が発売してヤマハ発動機に引き継がれたからコラボ製品と言える?)はなかなか表に出てくるものがありませんでした。けれど、唯一見つかったのは、1990年のリリースからでした。以下、書き起こします。

日本で初めて
レジャーボートに標準装備のマリンオーディオを
ヤマハ株式会社とヤマハ発動機株式会社が共同で開発

1990年9月
ヤマハ株式会社
ヤマハ発動機株式会社

 この度、ヤマハ株式会社とヤマハ発動機株式会社が、日本で初めてレジャーボートに縫溶装信のマリンオーディオ(ボート専用オーディオ機器)を共同で開発し、本日(9月3日)ヤマハ発動機株式会社が発表した新艇の一部の機種に標準装備します。
ボート市場は、マリーナの整備等により拡大傾向にあり、しかもユーザーニーズは高付加価値化してあります。こうしたなかで、サウンドを楽しみながらのフィッシングや、船上パーティでのBGMなど、良いサウンドの音楽を船上で楽しみたいという層が増えており、ボート専用に設計されたマリンオーディオが標澤装備されているレジャーボートがユーザーから求められていました。
今回の共同開発に当たって、ヤマハのオーディオ技術力にヤマハ発動機のマリンにおける総合的技術力を加え、マリン仕様にするため、防錆、振動、衝撃、防水、ノイズ、受信環境対策等の、ハードな条件に耐えうる実装テストを繰り返しノウハウを固めて参りました。その結果、今回、標準装備のマリンオーディオ共同開発商品化に至りました。

今回開発した商品の特長は以下のとおりです。
①ボート内での使用を前揖に開発・設計をしているため、防錆、防滴、耐振性に優れている
②標準装備のためスピーカー取付部の構造等が一体設計されており音質が良い。
③ボート全体のデザインにコーディネイトされているため、カラーの統一感があり、取付位置等機能面で使い勝手も良い。
④ボートを未使用時にカセットレシーバー部を外して他の場所に保管できるプルアウト方式を採用しているため、盗難、錆等による破損を防ぐ。
⑤DCアダプター(DC24VをDC12Vに変換)を使用することにより、全てのボートに対応できる。

■マリンオーディオキットの主な特長と機能

カセット・レシーバー部 カセットデッキ プルアウト方式採用 外製部ステンレス化ーステンレスは防錆に最適材料
フルロジックメカ機構、ドルビーB/C NR内蔵、頭出し選曲て(1曲)……ワンタッチ自動選曲機能
オートチューナー……デッキの早送り、巻き戻し時チューナー受信機能
オートテープセレクター……メタル、ノーマルのイコライゼーションの自動選択機能オートリバース
チューナー FMにデジタルファインチューニング回路搭載……周波数の微調整で雑音を減らし、安定受信する
ワンタッチ受信……自動チューニング機能
プリセットメモリー(FM18局、AM6局)
アンプ部 アンプ4チャンネル、最大出力20W×4ch、フェーダーコントロール……前と後のスピーカーのバランス調整機能
ラウドネスコントロール……小音量で低・高音を聞き取りやすくする
その他 好みに合わせた照明選択機能(グリーン、アンバー2色)
スピーカー部 外部デッキ用:防滴対応(水洗い可能)、耐候対応プラステチック製グリル・フレームで防錆対応、振動板にポリプロピレン採用……水に強く、メリハリのある音質
室内用:振動板にポリプロピレン採用、2ウェイスピーカー
その他 防水カバー:外部デッキに装備した場合に使用、防水仕様、耐候対応
アンテナ、アンテナプレート:ステンレス製
DCアダプター:DC24VをDC12Vに変換薄型で取付が容易、低雑音

マリンオーディオ

「フルロジックメカ機構」「ドルビーB/C NR内蔵」「頭出し選曲」「ワンタッチ自動選曲」「メタル、ノーマル」……なんて懐かしい響きでしょうか! しかし、搭載される船名、製品名などが書かれていません。それで、調べてみると、どうやらSC-60という船が1990〜1991年に発売されていたようです。SCと言えば奇しくも同時期の1991年に登場した3代目ソアラのレクサスでの車名。偶然でしょうけど…

バブル期のらしいゴージャスなボートS「C-60」のカタログを発見

いろいろ探してみると、SC-60のカタログが見つかりました。

バブリーですね〜。

(元はこちらhttps://global.yamaha-motor.com/jp/stories/history/products/img/boat-1/AP000168579.pdf

バブルの最盛期に企画されたようですね。ゴージャスです。ギリギリこの頃に仕事してましたが、少しだけ恩恵に預かった気がします。

この中の装備表を見ると、確かにオーディオに関して、「ヤマハ」の記述がありますね。

当時をマリン製品を知る人によると、確かに、その頃のキャビンが充実した大型ボートには、SC-60に限らず、ヤマハ製防水スピーカーとオーディオが搭載されていたそうです。オーディオとしての性能については好評だったと思うし、ヤマハ製ボートにヤマハスピーカーを搭載しているのは、ブランドとして自然だったし、誇らしかった、とのこと。

そして、30年の時を経て、再び両社のコラボ商品が誕生しました。

ヤマハ発動機の水上オートバイ「WaveRunner2025」に搭載されるオーディオをヤマハが開発を担当したのです。

水上オートバイにオーディオが必要なの?と思いましたが、北米などでは、スピードを楽しむだけでなく、家族でジャングルクルーズのように(?)ゆっくりと冒険ツアーのように水上を走るような使われ方がかなりポピュラーなんだそうです。いわばドライブなわけで、それならカーオーディオと同じく、音楽は必要なんですね。

ヤマハ発動機の水上オートバイ「WaveRunner」2025モデル

「WaveRunner」2025モデルに搭載されるヤマハオーディオのスピーカー

その開発秘話をヤマハ株式会社本社に取材に行ってきました。その内容は以下からご覧ください。

■2つの“ヤマハ”がコラボって何だ? 水上バイク「WaveRunner」で実現した、音と乗り物をつなぐ開発ストーリー(https://motor-fan.jp/mf/article/328973/

(小林和久)

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