スーパーフォーミュラ 2025年第1・2戦 spotter guide

photo: JRP
レースフォーマット
■レース距離:第1戦<3/8(土)> 156.789km (鈴鹿サーキット 5.807km×27周・14時45分スタート予定)
第2戦<3/9(日)> 180.017km (鈴鹿サーキット 5.807km×31周・14時40分スタート予定)
(ともに、最大レース時間:1時間15分 中断時間を含む最大総レース時間:2時間)
■タイムスケジュール:土曜日、日曜日の各日、午前中に公式予選、午後に決勝レースを行う週末2レース開催となる。「2025年全日本スーパーフォーミュラ選手権統一規則」第6条4項における「1大会2レース制」に該当。この場合、2戦それぞれのレース距離は最短110km、最長300kmとされる。
ちなみに
- 先頭車両が2周回を完了する前にレースが中止された場合、レースは成立せず、選手権得点は与えられない。
- 先頭車両が2周回を完了し、走行距離がレース距離の75%(小数点以下切り捨て)未満でレースが終了または中止された場合、レースは成立、選手権得点は1/2となる。
- 先頭車両がレース距離の75%を完了した後に終了または中止となった場合、レースは成立、選手権得点は全てが与えられる。
今回の2戦でこの「75%」に該当するのは、第1戦が21周、第2戦は24周。
金曜日(3/7)午前(11時〜)・午後(15時30分〜)それぞれ60分間の専有走行枠(午後のセッションに続いて5分間のスタート練習)が設けられている。
スターティンググリッドを決める。
■予選方式:ノックアウト予選方式 (「2025年全日本スーパーフォーミュラ選手権統一規則」第24条に規定)
2グループ(A組・B組)に分かれて走行する公式予選Q1、そのそれぞれ上位6台・計12台が進出して競われる公式予選Q2の2セッションで実施される。
3月8日(土)は9時50分から、3月9日(日)は10時15分から、実施予定
- 公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。そこから10分間のインターバルを挟んでQ2は10分間の走行。
- 公式予選Q1のグループ分けは主催者(JRP)が決定する。第1戦については抽選によって、第2戦については第1戦終了時点のドライバーズ・ランキングの上位から振り分ける形で。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
- 第1戦Q1の組分けは…【暫定版・カーナンバー】
A組:4,5,7,10,12,15,20,28.37.39,65
B組:1,3,6,8,14,16,19,29,38,50,64
- Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
- Q2の結果順に予選1~12位が決定する。
- 各セッション終了直前にアクシデント等で赤旗提示、走行が中断された場合は、コースインして1周し、次の周回でタイムアタックが可能な残り時間を設定して再開する。(スーパーフォーミュラの慣例として/鈴鹿の場合は3分)
自動車競技は、つまるところ「タイヤ」に行き着く。
■タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク
ドライ1スペック, ウェット1スペック
■タイヤ使用制限:ドライ(スリック)
2025年全日本SF選手権統一規則・第23条2項には、「競技会期間中を通じ、1レース、車両1台あたりに使用できるドライタイヤは最大6セットとする」と規定されている。
■決勝中のタイヤ交換義務:あり
- スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
- 第1戦:先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。
- 第2戦:先頭車両が1周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。
(鈴鹿サーキットの第1SCラインは最終コーナーを立ち上がり、ピットロードが右に別れる分岐点に引かれた白線。ちなみに第2SCラインはピットロードが本コースに合流後、1コーナーに向かうコース幅に収束した位置に引かれた白線。)
- タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
- レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合は交換義務の対象として認められる。
- レースが(31周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
- 決勝レースの中でウェットタイヤを装着してコースインした場合、このタイヤ交換義務規定は適用されないが、ウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる。

photo: JRP
スーパーフォーミュラの戦いを「タイヤ」から見ると…
今戦でのドライタイヤ運用は、まず2月18-19日にここ鈴鹿で行われた公式テストの際に「2025年仕様」(後述)のタイヤが各車に6セット供給されている。しかしこのテストは前日夜の降雪が18日朝にまで残って午前中のセッションの路面は低温ウェット状態から走行ラインだけ乾いていった程度。午後のセッションはなんとかドライで走れたが、2日目は降雪で全セッションがキャンセルとなった。各車2セットは使ったと思われるが…。
この6セットは、今戦の週末に向けて、金曜日午前午後・各60分の専有走行で使われる。そして金曜日の走行が終わったところで3セットを返却。残り3セットが「競技会期間」に“持ち越す”タイヤとなる。
土曜日の第1戦に向けては、新品が3セット供給されて合計6セット。これで今年最初のレースを戦った後、その中から3セットを選んで第2戦以降に向けて“持ち越し”、そこにまた新品3セットが供給されて、合計6セットで日曜日のレースに臨む。と、現地で聞き取った内容を整理するとこんな段取りが組まれたとのこと。文字で書くとちょっとややこしいが。
これに基づいて「タイヤの使い方」に想像を巡らせると…。まず金曜日の専有走行は、まず走り始めに、チームのファクトリーで組み上げて持ち込んだ車両に不具合がないことを確認する「インスタレーション」ラップは2月に走ったユーズド品を履いて出るとして、そこですぐに新品を投入して、まずはセッティングの確認と煮詰め。そして翌日の予選も午前中なので、この専有走行はそれよりも1時間近く遅い時間帯とはいえ、最後の10分程度を使ってアタックラップのシミュレーションをしておきたいところ。ということは、午前セッションの終盤で新品をもう1セット投入する車両が多くなりそうだ。あるいは路面に溶けたトレッドコンパウンドが粘り付いて、いわゆる「ラバーが乗る」状態になるのを待って、午後のセッションの最後に新品セットを履かせてアタック・シミュレーションを行うか。その午後のセッションは決勝レース後半に対応する時間帯なので、午前中に使ったセットの中から、確かめたい走行履歴に相当するものを選んでレース・シミュレーション、とくにここまで確かめることができていない走行距離と摩耗・消耗、グリップがどこまでもつかを確かめたいところ。午前、午後と、各車がどのタイミングで、どのくらい連続周回を行うか、とくに午後のセッションではピットに入っても滞留時間が短く、つまりセッティングの微調整程度でまた周回を重ねるようであれば、決勝シミュレーションを行っていると見ていい。タイヤの消耗進行を確認するためには、10〜15周かそれ以上を同じセットで走っておきたいところで、ライブタイミングなどでそこを確かめると、各車それぞれの準備状況を読み解く一助になる。
このパターンだと、新品を2〜3セット投入。余裕があれば最後にもう1回クイックラップをトライして自分の「現在位置」を確かめたいドライバーも少なくないので、テストからの6セットを「1アタック品」を含めて使い切ることもありうる。その一方で、続く土日の決勝レースを考えると、“持ち越し”として手元に置く3セットの中に走行履歴無しのものを残しておきたい。このあたりをどう判断するかがチームと車両によって変わってきそうだ。
レースディとなる土曜日、日曜日は、ともに走り始めが予選Q1になるわけで、当然、新品セットを投入。鈴鹿の場合はコースインして1周するだけで2分はかかるし、この季節は路面温度も低く、タイヤのウォームアップに少なくとも2周回、状況によってはもう1周必要になる可能性もあり、Q1の10分間でも2回のアタックは難しいので、まずユーズド品を履いて1周、多くても2周でピットに戻り、新品に履き替えてタイミングを見て“出撃”というのが標準的な流れだろう。Q2に進んだ車両はそこで2セット目の新品を投入する。
午後の決勝レースでは2セットを履き替えて使うことが規定されているわけで、少なくとも1セットは新品、もう1セットは予選で履いた「1アタック品」というのが定番。
ここで上記したように、今季は週末2レース制の場合、土曜日はレース距離短め+タイヤ交換10周完了以降、日曜日はレース距離ちょっと長め+タイヤ交換1周目以降、と異なるフォーマットになった。
となると、もし決勝に向けて新品の残りが1セットの場合、そしてスタートポジションが後方で状況打破を狙いたい場合、「1周完了で替えてもいい」スタートには「1アタック品」を履いて、ロングスティントになる2セット目に新品、という選択肢もありそうな…。
ここ2年、SF23仕様での鈴鹿のレースを振り返ってみると、タイヤ交換を行って暖まった直後の1周はフレッシュなコンパウンドの“一撃”でラップタイムのピークが出るが、そこから7〜8周・40〜46km程度で明らかなペースダウン傾向、いわゆるデグラデーションが現れているドライバー&車両が少なくない。もう少しペースを抑えて、あるいは転舵を柔らかく、横すべりを少なくするようなドライビングでタイヤを“労わって”も、70〜80km走行、鈴鹿でいえば12〜14周でラップタイムが落ちていく。このあたりを押さえたところで、土曜日は短めのレース距離に対して「均等割り」を基本に、日曜日は1周完了でタイヤ交換を敢行しても残り175kmを走り切るのはほとんど無理。でもそこでギャンブルもできるような戦略の“自由度”を広げる、というのがルールを設定する側の意図なのだろうと思う。さて、戦う側としてはここでどうするか。
タイヤの素材とコースの再舗装
しかも今戦は、ここにさらなる“unknown”ファクターが加わる。
今季から投入されるタイヤ、“仕様”が微妙に変わっている。横浜ゴムのリリースによれば「再生・リサイクル原料比率をさらに高め、約46%を達成(ドライ・ウェット用タイヤの平均値)」とのこと。こうした表現は基本的に重量ベース。

スーパーフォーミュラ用ドライタイヤ。1年を通して同一仕様。寒い時期はトレッド・コンパウンドが発熱して溶け粘着するまで暖めるのが難しい。車両装着外側面にグリーンの帯。(図版提供: 横浜ゴム)
CO2を吸収して育つ植物(バイオ原料)など、CO2排出を増やさないことで“再生可能”とされる素材(タイヤを再生して素材化する、のとは別の話)として、例えばトレッド・コンパウンドや骨格に使われるそれぞれの「ゴム」は、複数のゴム系の素材(ほとんどは合成ポリマーで石油起源のものが多いはず)をブレンドしたものであり、タイヤ製造工程の最初にそれらを混練する。この時に混ぜて素材を柔らかくして練り合わせるためのオイルは植物由来。
トレッド・コンパウンドなどに使う合成ゴムは「マスバランス方式」、すなわち原料から製品までの加工・流通工程において使った植物起源の原料と同じ重量だけ、製品として「バイオマス由来」とみなすやり方で、「再生可能」比率を高めている。ここはなかなか天然素材をそのまま使うのが難しい。このトレッド・コンパウンドにはゴムの強度を高めるためにまずカーボンブラックを練り込むので「タイヤは黒い」のだが、最近はそれに加えてシリカ(酸化ケイ素)も練り込む。カーボンブラックは水を弾くのに対して、シリカは水に馴染むので、一般タイヤでもシリカが入っているのだが、今年のSF用タイヤでは「籾殻由来のシリカ」が使われている。これもつまりは植物起源、かつリサイクル素材。籾殻を焼いてできた灰からシリカを抽出できるので、その類の素材だと思われる。
またリサイクルで得られた素材としては、ホイールと嵌め合わせる内縁に入れるビードワイヤ、トレッドコンパウンドの下層、タイヤの骨格である繊維糸とゴムで作られたカーカスの外周を巻き締める、細いスチールワイヤを引き揃えた「ベルト」には、鋼線(高強度でいわゆる「ピアノ線」に近い)が使われているわけだが、これらに再生材を元に製造したものを採用している。
こうした素材を各所に織り込んでゆくにあたって、まずはゴムとしての特性、強度と弾性、温度による変化などについては、これまでのタイヤとできるだけ同じようにするところから始めるのが基本。タイヤになった時の路面との摩擦特性・摩擦力、たわみ量などの性能・特性についても、白寅(ホンダ・エンジン)・赤寅(トヨタ・エンジン)の開発車両2台を使ったテストで確かめつつ、最終的な「2025年シーズン用タイヤ」に仕上げてきた。とはいえ、タイヤはほんとにデリケートなもの。これは競技用でも一般車用でも変わらないのだが、レースの現場ではその微妙な差異が、ドライバーによってドライビングの組み立ての違いとも重なり合って、マシン・セッティングに、その走らせ方に影響してくる。
おそらく摩擦力の絶対値、それとタイヤ荷重、すべり量との関係など、“定量的”な特性はほとんど同じのはずだが(それはラップタイムなどの概略性能に現れるので)、それを引き出すまでのタイヤの変形の現れ方などの“過渡的な”タイヤの挙動には、ゴムの微妙な違いが現れる。例えば、今日の競技用タイヤ、一般車用タイヤにはほとんど使っていないと思われるが天然ゴム系の素材をケース(骨格)に混ぜると、変形の粘り感が少し弱くなって、最初は硬めに感じられつつ、ある程度の荷重を乗せるとクニャッとたわむ…傾向が現れたりする。こうしたタイヤ挙動をどう体感するか、さらにそれを気にする/気にしない、も、ドライバーによってかなり違う。以前、同じ横浜ゴムのSF用タイヤでトレッドからサイドに回り込む部分のプロファイル(断面形状)を少し変えた時もそうだったが。いずれにしてもこうした微妙な特性や感触の違いは、走り込めば対応してしまうものなのだが、ここまでちゃんと走れたのは、2月のテストの1セッションだけなので、今戦では金曜日の専有走行2セッションの中でどう対話を進めるか、がポイント。
それ以上に問題になるのは、この新しい仕様のタイヤに加えて、鈴鹿サーキットの東コース、日立Astimoシケイン(T(ターン)17)先・最終コーナーからNIPPOコーナー(T7)を駆け上がったところまでの舗装が張り替えられたこと。縁石外側のアスファルト面や芝面がグラベルに変わった所も複数ある。また細かなアンジュレーション(凹凸)ができていて、SFでは走行時に車体底面接触やクルマ全体が跳ねるなどの問題が起き、他のカテゴリーからも指摘があったのに対応して、3コーナーやNIPPOコーナーで走行ラインとなるイン側など、舗装路面の修正が行われたとのこと。ここでまた2月のテストの時点とは違う状況となったわけで、今戦・金曜日の専有走行はその確認から始める必要が出てきた。
いずれにしても、コースの半分近くの路面が変わったことと、タイヤ各部のゴム特性の微妙な変化が組み合わさった状況で、摩耗とそれによる摩擦特性の変化(デグラデーション)がどう現れるか。これがじつは、気温・路面温度がかなり低くても、2日間・8時間が予定されていた2月のテストの中で確かめたい最重要要件だったはずなのだが、それができなかった。今週金曜日の120分の中でデータを集めるしかない。土曜日のレースでは実戦データが得られるので、日曜日は戦略の選択幅が絞られてくるはずだが。
まだ2月の1セッションしか走っていない本稿執筆時点で、「2025年仕様の(ドライ)タイヤは、意外にデグラデーションが少なそう」という声も聞こえてきた。もし昨季までのように「丁寧に使っても80〜100kmで“崖が来る”(グリップダウン=ラップタイムが落ち込む)」傾向が弱まり、トレッドが完摩耗するまでそれなりに走れそう、ということになれば、日曜日のレースでは1周完了で後方グループの車両が続々ピットになだれ込むシーンが演じられる、かもしれない。
■タイヤ使用制限:ウェット 1レース、車両1台あたりに使用できるウェットタイヤは最大6セット

スーパーフォーミュラ用ウェットタイヤ。こちらも年間を通して1スペック。この図の反対側、車両に向く面にグリーンの帯が入り、オンボード映像で装着が確認できる。(図版提供: 横浜ゴム)
■走行前のタイヤ加熱:禁止
燃料流量で競争力を均一化。その増量で“オーバーテイク”
■決勝レース中の燃料補給:禁止
■燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(122.6L/h) *ガソリンの性状(ブレンド)は地域と季節によって異なる。今戦の公式通知「ガソリン性状」に記された比重の値は「0.734」。まだ気温の低い時期とあって中日本エリア向けガソリンとしては「ちょっと軽め」かと。
- 燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇=時間あたり燃焼回数の増加に対して1回の燃焼に使える燃料の量が減るので、回転速度に反比例してトルクは低下する。つまり一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになる。
- NRE(Nippon Racing Engine)導入直後の2014年鈴鹿緒戦は最大流量100kg/h(8000rpm以上)、2015年からは95kg/h(7600rpm以上)に設定され、以降、2020年まで鈴鹿と富士ではこの流量値が設定されてきた。2021年からはこの2つのコースでも他と同じ90kg(7200rpm以上)の設定に変更されている。
- 現在の鈴鹿におけるSFのコースレコードは、2020年第5・6戦の予選(12月5日 晴れ・気温11℃・路面温度24℃)でキャシディがマークした1分34秒442。すなわち燃料リストリクター「95kg/h」でのもの。
2021年に燃料流量上限が「90kg/h」に絞られ、この条件での最速ラップタイムは、昨年開幕戦(3月9日 薄曇り・気温5℃という寒い中で行われた)の予選Q2で、阪口晴南が記録した1分35秒789。
■オーバーテイク・システム(OTS):最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)。
作動合計時間上限:200秒間
ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、鈴鹿は100秒。
- OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持される。概算で出力が60ps近く増える状態になる。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度までこの出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされる。
- ドライビングとしては、直線全体の加速(余裕駆動力)が強まり、先に待っているコーナーへのアプローチで速度が高まる、ということは、ブレーキングはその分だけ手前から始めないと、そのコーナーにターンインし、旋回することができる速度まで減速できない。OTSを作動させた時にはこの感覚の調整も要求される。
- 後方を追走している側は、前走車がOTSを発動させれば加速が段付き状に強まるので、それがわかり、どう対応するかを判断することは可能なはず。先行する側は、「ここで使ってきそうだ」と思ったら“ディフェンス”OTSを発動させる手もあり、実際にそうしたケースが増えているが、後続車両のドライバーは早めにOTSを切ると、お互いの作動不能時間が終わるのが自車のほうが早くなるので、そこで仕掛ける、といった駆け引きが生まれている。
- このオーバーテイク・システム(OTS)の発動を知る方法としてはSFgoアプリのテレメトリーデータになるのだが、それぞれの車両を選択表示させた上で、その画面を注視することが必要。しかしそこにアプリ上の伝送遅れ時間が、通信環境にもよるが、何十秒間かある。
- チームとドライバーの無線交信の中で、直前・直後の車両のOTS関連情報を知らせる、問い合わせるケースが多くなっている。ドライバーからは「(直接競い合っている)車両・ドライバーがOTSを発動させたかを問い合わせる交信もあるが、SFgoの伝送遅延時間では、即応が難しい。むしろ「残り何秒?」が、競争の組み立ての中では意味が大きい。
- ロールバー前面LEDは、当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。インターバルタイム中の点滅も引き続き表示される。残り時間がなくなると消灯。作動の状態にある時は、ロールバー上とリアのLED表示は「遅い点滅」。車両電源ONでエンジンが止まっていると、緑赤交互点滅。また予選アタック時にドライバー自身がその意思を外部に表示したい時には、このLEDを点滅させる「Qライト」機能も使用可。
で、鈴鹿という舞台では…
- 一度作動させてしまうとその後100秒間は作動不可、ということは、鈴鹿のレースペース(ラップタイム)がドライ路面で101〜103秒なので、一度使った後は、作動オフしたところからちょうど1周かちょっとだけ先、までは使えない、という計算になる。
- コース・レイアウトから見て最も効果的なのは、スプーンカーブ立ち上がりから作動させてバックストレッチの加速〜最終到達速度を高める、という使い方。競り合いの中で、先行車両に追いつく速度差が出た場合などは、もはやアクセルを戻さないことも多い130Rもそのまま、シケインにアプローチするブレーキングに入る瞬間まで作動を続けることもありうる。
- もちろん、最終コーナーの加速からメインストレートで使うことも、速度上昇を早めるのには有効。ただそれだけでオーバーテイクが可能か、というと…。シケインでの攻防から先行車の立ち上がり加速が鈍った、といった状況でないと1-2コーナーで追い越しを仕掛けるところまで行くのは難しい。そのまま使い続けてS字〜ダンロップコーナーを上り切るまで行き、デグナー入口までに一気に差を詰める、という使い方も見受けている。
- スプーン立ち上がりから作動、バックストレートからさらにシケインを抜けてメインストレートまで使い続ける、という「長い」使い方も可能。
- 2コーナー立ち上がりからS字、逆バンク、さらにダンロップコーナーを抜けてデグナーまでの区間も、登り勾配だけにアクセルを戻す瞬間が入りつつも、OTSを作動させることで各所の加速を強め、区間タイムを切り詰める効果はかなり出る。
- ドライビングとしては、直線の先に待っているコーナーへのアプローチで速度が高まる、ということは、ブレーキングはその分だけ手前から始めないと、という感覚の調整は、鈴鹿ではとくに1コーナーへのアプローチ、デグナーからヘアピン、あるいはスプーン、両方のアプローチでのブレーキング、そして最後のシケインの飛び込みで要求されるところ。

12三宅 淳詞。敦野尻智樹とともにチャンピオンを獲ってきた一瀬エンジニアがチームに加入。テストで早々に速さを示したことで注目されている。(photo: JRP)
■決勝レースでの燃料搭載量:車両側の最大容量は95Lで、これを“満タン”状態まで積んだ場合のガソリンの重量は 71.25kg。燃料補給なし・レース距離短縮の現状では、最大でも90Lほどにタンク容量を抑えている(ガスバッグ内に「容量調整ボール」を入れる。
燃料リストリクター)の設定90kg/hでのレースでは、従来実績から推定して2.5km/L(3.4km/kg)程度で走れそうだと仮定すると、レース距離157kmだと63L(46.1kg)、180kmだと72L(52.8kg)を消費する計算になる。OTS作動200秒分が0.76L(0.556kg)、これにピットからグリッドまでの1周とフォーメーションラップ1周、そしてフィニッシュ後に戻ってくる1周、合わせて3周の低速周回に必要な燃料量(仮に3L, 2.2kgとする)、さらに統一規則にある「全ての走行セッション終了後レース終了後、車両から1.0Lの燃料サンプルを抽出できなければならない」の分(1.0L, 0.734kg)を加えると、土曜日の第1戦では68L, 49.9kg、日曜日の第2戦では77L, 56.4kgあたりが、レース“出撃”時の搭載燃料最少量となるはずだ。
この前提条件だと、1周あたりの燃料消費量は2.4±L。10周で18kgほど燃料重量が軽くなってゆく計算になる。
ピットストップ+タイヤ交換が義務付けられている。
◆レース中のタイヤ交換ピットストップについて
■ピットレーン速度制限:60km/h
■レース中ピットレーン走行+停止発進によるロスタイム: 鈴鹿の場合、最終コーナーを立ち上がった先でピットロードが分岐するが、速度制限区間が始まるのは計時ラインの30mほど手前であり、そこまではエントリーロードをほぼレーシングスピードで走ってくることもあり、ピットレーン走行による(ストレートをレーシングスピードで走行するのに対する)ロスタイムは約27〜28秒と推測される。ちなみにピットロードの速度制限区間の長さをGoogle Map上で測ると405m。これを時速60kmで走行し、途中に停止・発進が入った走行時間の机上概算値は26.2秒。
これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが暖まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが半周、スプーンカーブにかかるあたりまでペースが上がらないことで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となる。言い換えれば、ピットタイミングが異なる車両同士では、この「ミニマム35〜36秒」が、順位変動が起こるかどうかの目安になる。

photo: JRP
■ピットストップ: ピットレーンでの作業が認められる要員は6名まで。ただし1名は「車両誘導要員」として、いわゆる“ロリポップ“を手にしての誘導に専念することが求められる。したがってタイヤ交換に関われるメカニックは5名となる。この人数の中でタイヤ交換以外の作業時間を削り取るべく、前側のジャッキアップを自動化。車両ノーズの進入を接触センサーなどで検出し、圧縮窒素ボンベからのガス圧力で伸縮するシリンダーを伸ばしてリフトさせる。後側は人手で空圧ジャッキ挿入後、リフトを自動化。どちらも空圧を抜けば車両重量でジャッキが“落ちる”。各チームのメカニック・グループの設計製作なので、車両検知・リフトのメカニズムがそれぞれに異なる。前側に自動上昇ジャッキ、後のジャッキ(これも空圧作動が普及)の挿入・上昇の作業に1名が付き、残り4名は各輪の場所で待機して車両が滑り込んできたら一気に4輪交換に入る。前輪側の一人が作業終了して移動、反対側の作業完了を確認した瞬間にフロントジャッキを落とし、リアは専任者が同様にジャッキダウンして、発進…という流れが一般的。このあたりは、各チームの知恵と練習の成果が現れるところ。
【参考】
◆鈴鹿サーキットのセクター平均速度
(1)SF23(燃料流量90kg/h)での現状最速タイム=2024年第1戦予選最速タイム(阪口晴南:1分35秒792)にて計算
セクタータイム[秒] | 区間距離[m] | 平均速度 [km/h] | 1周タイム比率[%] | |
セクター1 | 25.635 | 1658 | 232.84 | 26.8 |
セクター2 | 15.413 | 936 | 218.62 | 16.1 |
セクター3 | 36.127 | 2130 | 212.25 | 37.7 |
セクター4 | 18.614 | 1084 | 209.65 | 19.4 |
周回 | 95.789 | 5807 | 218.24 | (100) |
直線到達速度 | 283.355km/h |
(両角岳彦)
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