水素でクルマを走らせると…
ついでに語っておくと、燃料が気体だと、「重量あたりのエネルギー量」はそれなりに大きいのですが、「容積あたりのエネルギー量」は当然ながら液体燃料よりもかなり小さくなります。
写真:トヨタ自動車
例えば水素。分子量「2」の最も小さな物質。電力を直接生み出すメカニズムとしては燃料電池が実用化されていますが、これじつは「電池」ではなく、水の電気分解とは逆のプロセスで、水素と(空気中の)酸素を反応させて水を作る時に電力を発生させる「発電装置」で、英語では「Fuel cell」と言います。内燃機関の燃料に使うことも、着火しやすく燃焼制御がかなり難しいのですが、可能です。燃焼は、酸素と結びつく反応で熱を発生する現象で、純水素を燃やせば水が生成されるわけです。
ここで問題は、水素は基本的に気体として存在していて、大気圧状態では1m3あたり90gと非常に軽い。つまり1kgでの体積は11m3にもなる。一方、ガソリンと同じエネルギー量(発熱量)を持つ「体積」を計算してみると、ガソリンの約3200倍が必要になります。
写真:トヨタ自動車
そこで気体のままで自動車などに搭載するにあたって、まず350気圧(35MPa)まで圧縮して高圧対応ボンベに充填するところから始め、最近は700気圧(70MPa)まで高めるやり方が、日本では一部で始まっていますが、いうまでもなくそのためには充填スタンドにもそれなりの圧力生成システムが必要になります。押し込む側の圧力と容積の両方が十分に大きくないと、そして冷却を続けないと、受け入れる側の圧力が高まってくると充填速度が落ちて、最後はなかなか入っていかないということも起こるので。現状実用化されている「水素スタンド」で確かめたところでは、充填圧力80+MPa、ガス温度-40〜-35℃で運用していました。
この70MPa貯蔵を実車に搭載しているトヨタの燃料電池-電動車両(FCEV)で遠出したことがありますが、141ℓ(5.6kg)〜ガソリン、軽油タンクの2倍以上の容積なので、搭載スペースを確保するのはかなり大変です。円筒形のタンクそのものものも高圧に耐えるためにC(カーボン)FRPを巻き上げて成形し、内面には水素の透過を抑えるフィルムを貼るなど、手間とコストがかかったもの〜の水素タンクを“満タン”でスタートして、580kmを、ほとんどの行程を高速道路巡航で走って、充填した水素は5.0kg。さすがに目的地付近の水素スタンドを事前に確認しておいて途中で“給ガス”しました。このクルーズの平均燃費としては110km/kgというところで、満タン使い切りの航続能力としては600km。WLTCモードとされる公称値の820kmは、やはり実用的には難しいことを確認しました。
写真:筆者
ちなみに走らせた感触は、ふつうに「モーターで走るクルマ」であり、そこではアクセルペダルの動きに対する駆動力の作り方など、今の日本車に共通する弱点をいろいろ発見しましたが。FCEVに関しては、走れば走るほど、水素を消費して水が生成されるので、酸素が加わる分だけ重量が増えていきます。今、使われている燃料電池は「固体高分子型」で、その電極部分は作動時に90℃ちかくまで温度が上がり、生成した水は水蒸気の状態から冷却されていったん蓄えられ、タイミングをみて車外に排出されます。これを「パージ」といいます。この「電極部分に水が生成する」ことで、氷点下で作動を止めて長時間駐車していると、作動の中核部分に氷が生ずるのが固体高分子型燃料電池を自動車に使う時の難しさにひとつでしたが、そこは始動時にはFCスタックを予熱するなどの開発・改良によって改善され、最近では外気温-30℃〜でも使用可能とされています。<続く>
(両角岳彦)