■ミディアムサイズのクーペスタイルクロスオーバーSUV
商品企画としては、エクステリア・スタイリングに端的に表現されているように4ドア・クーペ・スタイルのクロスオーバーSUV。ヨーロッパとしてはミディアムサイズ。ハイブリッド動力システムの内容と仕上がりについては後で他の車種も含めて詳しく語るとして、まずこのモデル単体のパッケージング・レイアウトから述べておくと、とくに気をてらうこともなくストレートに組み上げた今日的SUVのキャビン及び全体のレイアウト。すなわち、運転席でもフロアが路面に対してやや高め。一般の乗用車系からするとおそらく50〜70mmほどは高い印象。その上にペタリと低く座るのでもなく、ややHP設定は高めに、フロアパネルの上でシートレールを支持している横方向のビームが30mm程度は高く上に張り出していて、シートレールはその上に乗っている。これでシートの上下調節を最も低い位置にしても、踵が少し下に落ち、膝の折れ角も少し大きめになる、そういうポジションに落ち着く。
この状態で、私の体型で(座高で)、頭頂部から天井内張りまでの間隔は約100mm。スカットルからルーフに向かって少し傾斜の強いフォルムを形作っている中に、やや前寄りに座っていることからすれば。前席の乗員にとって十分な居住空間が確保されていることがわかる。
ただしこの右ハンドル仕様に関しては、おそらくもともとのプラットホームのペダルヒンジの位置(高さ)はLHDとRHDでは対称形で、そこから右足元に張り出してきているホイールハウスの出っ張りを逃げて、フット・クリアランスを確保し、そこにペダル面を合わせているものと思われるが、若干ではあるがペダルが手前・上向きになっていて(本来のドライビングポジション設定に対して)、ステアリングのテレスコピックを1番手前まで引いても、手と足の位置関係のバランスが少しではあるが取りにくい。つまりペダルが少し近い。シートハイトを少し上げると改善される方向ではあるけれども、それだと上体まわりのキャビン空間への収まり、メーターパネルへの視線角度などのバランスとして人間が少し上に行きすぎる形になり、しっくりこない。つま、ここは手前側にあって上向き度合いの強いブレーキペダルに対してまず足の位置と動きを合わせ、その足-ペダルが少しだけ詰まった感覚になるあたりまでシートを前に寄せて、妥協点を探ることになる。
リアシートに関しては、着座姿勢設定がまずHPを高めに置き、前のシートの乗員に対して少し高い位置から周囲を見渡す、いわゆるシアター・レイアウトがちゃんと組んであり、そこからフロアに向かって膝を折り、自然に足を下ろしたところに床があって収まり、それに対してシートバックも比較的立っていて、ちょっと深めにシートにお尻を入れるとそのまま良い形の姿勢に収まる、そういうレイアウトが構築されている。シートはフロントシートに比べると全体に固めで、体重を受けてたわむストローク量が少ないけれども、収まり感、身体へのフィット感は良い。ただしさすがにルーフラインが下がってきている、その下に座っているので、ヘッドクリアランスは私の体型でまぁギリギリOKというところ。また頭から顔の横に来る、天井からサイドウィンドゥへとつながっていく面を上に向かって内側に少し絞ってある、その面がやや近い印象を受ける。後席は基本的に2名乗車がちょうど良い空間である。
■全般的な車両の動きは?
全般的なクルマの動き、とくに足まわりの仕込みに関しても、このエクステリアとインテリアのスタイリングから期待するとおり、あるいはイメージを納得させる、そういうまとめ方をしてきていることが、限られたシチュエーションではあるけれどもこのクルマを日本とヨーロッパの一般道で走らせるレベルで言えば、このあたりが狙いだろうなというイメージがちゃんと伝わってくるし、それのいくつかの局面で一貫した車両の運動特性、反応、ライドコンフォート同士でけっこう統合された特性、感覚で現れてくる。
■タイヤとの相性は?
基本的にタイヤとサスペンションの伸び縮み方向の向きは少なめに押さえる方向のセッティング。かといって路面凹凸の当たりから車体、身体に伝わってくる上下方向のショックがきついわけではない。ここはタイヤも悪くないし、どちらかというとややコンチネンタル的なケース周方向の張りの強さは感じられ、最近のミシュランのようなマイルドさ、路面ショックの角を丸める柔らかさは現れてこないが、路面の凹凸を踏んだ瞬間のエンベロープ特性がそこそこうまく出ていて、その先でケースが少しはっきりと“張る”(突っ張る、まではゆかない)感触があり、そこで一瞬、ドロドロッとした細かな振動が伝わってくることがあるが、全般に路面凸凹に叩かれた後の残留振動は少なめで揺れや振動がスッと抜ける感触。つまり、入力からの変形たわみ、減衰も普通のリズムで、上下動が比較的すっきりと収まる、そういうタイヤであることが推測できる。
このタイヤを含めて足全体が少し「硬め」の感触で、上下方向の振動に関しても、もう少し周期が長くなった「揺れ」に関しても、あるいは操舵を入れて旋回に移行してゆくところでのロールと、ピッチングを含む車体姿勢の収まりに関しては、車体の動きが少なめで早めにあるところ・姿勢に収める、というキャラクターに仕込まれている。パワーパッケージのアクセルペダルの動き、とくに踏み込み方向に対する反応のリズム感、すなわち、適度に穏やかではあるのだが、力の反応が立ち上がったところからは踏み込みに合わせてすっと押し出しの力が現れ増える、という特性とうまくシンクロしている。そういう印象。
■電動アシストパワーステアリング歯車の印象
EAPS(電動アシスト・パワーステアリング)の仕込みも最近のフランス車としてはかなりよくできている方で、中立付近からの手を動かしていったときのタイヤの動き、横方向への動きと力の立ち上がりの感触も比較的取りやすい。とはいえ、少し速めに手を動かすとさすがにモーター回転子の慣性を感じる、加えてトーションバー・センサーのゲインを制御の基本にしていることで、操舵系の中に発生する力を伝えるのが遅れ、そこで過剰に反応してしまうことで出るフラッとした感触変動、手ごたえのふらつきとなるアシストトルクの段差はあるけれども、またコラムシャフトの先にやはりある程度のフリクションやモーターの回転慣性、歯車系の噛み合いの雑さを感じはするが、舵中立からタイヤのねじり、そこからの横力立ち上がりの、とくに手ごたえの伝わり方は比較的しっかりしている。ステアリングホイールを押さえている手には、渋さなく柔らかいねじりを伴う重さが伝わってきて、そこで手を止める、戻す、という動作に対しても、手に伝わる感触と反力がまずまずそれなりに仕込まれている。おそらくピニオンドライブで、トーションバー・センサーもあんまり柔らかくない感触。噛み合いの感触から言うとけして良い歯は使っていない印象で、相変わらずTRWかな…と思うけれども、日本車(のほぼ全て)は論外として、これまでのフランスの(イタリアも)B,CセグメントのクルマたちのEAPSの中で一番不愉快さが少ない方だと言っておこう。
このステアリング系に加える手の動き、そこで現れる初期ねじりからの操舵操作に関して言えば、タイヤの特性も含めてフロントの動きが、ライド・フィールのフラットかつスムーズなリズムにうまく乗る感じで、すっと立ち上がってくる。そこから、前述のようにフロント外側の沈みこみが最近のクルマとしてはけっこう少なく、もちろん適度に横G=遠心力を受け止めてストロークをしているのだけれども、それが止まるところが浅めで、かつそこでの無駄な揺らぎのあまりないストロークから、旋回のラインが決まるところではロールもほぼその時に起こっている小さめのアングルで“決まる”感覚で、すっと旋回姿勢・軌跡に落ち着く。
そこから定常円的旋回を描いていくところのバランスも良い。路面のアンジュレーションを踏んだ時も、車体側の揺れや姿勢変化少なく、タイヤがきちんと路面をとらえて、クルマ全体としては比較的安定した強めの内向力、つまり旋回を維持する動きを保ちながらぐいぐいと回り込んで行く、そんな動き方を見せる。そこから旋回円をさらに内向きに縮めるのも、いつでも、どれだけでも動きますよ、という感触がある。
そこでさらに0.4+Gあたりまで踏み込んでいくと、少しだけリアが逃げる、というよりも無理して踏ん張らない感触はあり、4輪のグリップバランスを維持したまま車体横すべり角が若干増える感覚で、それまでの旋回軌跡を維持ししつつ回り込んで行く。この中で少しだけステアリングで、例えば「もう少し深く」というニュアンスの入力を加えると、フロントは少しソリッドな印象でそのアドリブに反応する。ドライビングと体感表現の訓練が浅い人間だと「意のままに曲がる」と言いそう(書きそう)な特質である、が、逆に素直、普通にすぎてそこまでわからないかもしれない。
車両全体の寸法、パッケージングに若干余裕があるだけに、このパワーパッケージと電池の重量を十分に受け止めて、スポーツ・ビークルとして、なかなかにまとまった動質であって、操るリズム、ドライバーのイメージと理にかなった操作に応える車両運動を、かなり広い領域で体現している。
個人的にはもう少し脚が動いても良いとも思うのだが、逆にこの質量とそれが位置する高さを持った車体で、少しばかり元気よく走るところまでビークル・ダイナミクスのレンジを広げ、そこで破綻のない仕上がりに持っていこうとした場合、これはこれでひとつの落としどころであると思う。
都市高速をそれなりのペースで走りながら、そこに現れてくるコーナーを(浅いのからそれなりに深いまで)、さらにそこにアンジュレーションや段差を含む路面変化が次々に刻々と現れてくる状況の中でも、旋回の動きを崩すことなく、とくにステアリングの動きに対してタイヤの反応、その転動の中から発生する横力の立ち上がりリズムとその先の踏ん張りがけっこう良いので、ドライバーとしては様々なシチュエーションをリズムよく、クルマの動きの乱れや揺らぎに神経を使うことがほとんどなく、ということは不安感も抱かずに、良い感じのリズムで、時として周りのクルマの速さ・流れよりもかなり速いペースでスイスイとこなしていける。最近としてはドライビングの面白さが普通に走る中でも味わえるクルマである。
日本的な住宅地や市街地のやや細かい道路でのストップ・アンド・ゴーでは、さすがにクルマの重さを少し感じさせる–これはルーテシアに比べて、が大きいが–ところはある。結局こうした発進加速では、機構要素はもちろん制御もほとんど変えていないパワーパッケージを載せたクルマ同士では、モーターの速度0からの立ち上がりトルクももちろん同一で、当然のように押し出す重量が軽いほど、同じ起動トルク→駆動力で押し出す加速度が大きくなるわけで、ごく当たり前の現象とも言える。そういえばEAPSもフランスやイタリアのクルマには珍しく、というべきか、据え切り〜ごく低速で過剰なアシストを入れずにやや重めの操舵力設定なので、この「最初に押す」ところではそれもクルマの「重さ」を感じさせる方向に働いている。さらにそのおかげで、発進直後から少し速度が上がって例えば20km/h、さらに40km/hと上がっていったところでの舵感触の不連続感も少ない。このあたりの仕込みも、作り手側がかなりはっきりと「こうしたい」という意識を持って仕込んでいったように思われる。これはR.S.LINEだからなのか、それともアルカナ全体がこういう方向なのかについては、まだこの1仕様しか対話していない現状では不明である。
いずれにしても、最近ほとんど使ってこなかった表現である「ソリッドな」フットワークとライド・フィールを味わわせてくれるクルマである。
■E-TECH HYBRIDについて
さて、このクルマのエンジニアリング、そして走らせつつの対話の中で、最大の着眼点であるハイブリッド動力システムについても、その機構の特色、実際の挙動、さらに「動力混合」の論理背景に基づく最適化…の各視点から述べておく必要があるだろう。
ドライバーズシートに収まってクルマとの対話を始めると、ごく普通に走る。そして素直。パワーパッケージとしてはドライバーの右足からのディマンドとその時のクルマの速度や走行状況に応じてビビットに、かつなめらかに、そして何よりも「普通に」走る。力を生み出し、役にほとんどのドライバーにとっては何の違和感もなく、走る。しかしこのメカニズムの中身をある程度でも理解しているものにとってはそれ自体が驚きなのである。もちろん理屈上はそう働くはず。しかし現実にそこまでこのメカニズムをまとめ上げるのは並大抵のことではない。というよりも技術屋の視点からすれば常識外れに近い。
まず、発進はモーター。これは電動と内燃機関の異種動力システムを混用するハイブリッド車両の基本。しかも、当然ながら動力伝達用摩擦クラッチがないので。
この状態でのアクセル踏み込みに対するモーターの「押し方」、つまりトルクを立ち上げ〜膨らませ、一定に、と瞬時に反応しつつクルマを”押し出す”感触は、ビビッドかついい感じに柔らかい。アルカナでは「ちょうど良い」力感、170kg軽いルーテシアでは、ちょっとでも多めに右足を押し込むと、いかにも力が”湧き出る”感触でグゥゥーと車が押し出されつつ速度が乗っていく。ちょっと深めのアクセルワークを多用すると、なかなかに「元気な」「活発な」、しかし角が立つところがない、動物の筋肉をイメージさせるような「力」の増え方である。つまり、レスポンスは良く、でも直線的に駆動力が立ち上がり、増えるのではなく、ある種の遅れや”溜め”を織り込んだ、良い意味での柔らかい反応と押し出しである。このあたり、欧米のクルマの中でもやっぱりフランス流、と私などはニヤリとしてしまう。
電池残量などとの関係で、この速度域、負荷=駆動力状態でもエンジンが始動することが折々にある。その時は、エンジン→発電→モーターというエネルギーの流れで、エンジンは駆動機構からは切り離されたまま、HSGを駆動している。つまり「シリーズハイブリッド」。でも要らなくなるとすぐにエンジンをカットする。
その先まで速度を上げていくと、基本的な走行制御としては50km/h前後でエンジン始動、スッと駆動に入り込んでくる。ショック、駆動力の段差は全くなし。
しかしじつはこの時、HSGがエンジンをクランキングする→エンジン回転が狙いのところまで上がる→燃料噴射と点火を開始→モーター駆動に合流するドグクラッチ嵌合・同時にエンジントルクとモータートルクの合算値をその直前〜加速の中の駆動力に合わせる、というプロセスが必要で、それを一瞬、おそらく0.5秒以内で完了している。ドグクラッチの嵌合だけならほとんどシームレス。つまり回転速度ジャスト、駆動力もモーターのみ→エンジンへ移行をぴたりとクロスオーバーさせていないと、こういう走りにはならない。
このモーターのみ→エンジンへ(モーターも必要に応じて参加)の移行タイミングは、基本は緩くであっても加速しつつ50km/hを越えるところ、だが、勾配要件(少しでも降っていて駆動力が要らないと、EVモード続行)もちろん、電池残量、動力システム起動直後のおそらくシステム・チェック状態、その他ちょっと読みきれない条件付けで、かなり変化するが、どんな時でも駆動切れなし、シームレスでエンジンが「合流」する。
逆にちょっとでも「駆動力は要らない」状態、例えば加速の中でアクセルペダルが戻り、コースティング状態に移って大丈夫、というその瞬間にエンジンは止まり、駆動ゼロ〜回生に移行する。つまりエンジン→変速機構へのドグクラッチをその瞬間に”抜いて”いる。ここもまったくショックレス。でも伝達トルクをゼロにしないとドグは抜けないし、抜くとショックが出る、はずなのに、それらしい感触さえない。滑らか、即時。
この状態からじわりと丁寧にアクセルペダルを”押す”と、エンジンは始動させずにモーターだけの「EV」モードで70km/h以上まで走ることがしばしばある。細かく観察していると、わずかに下り勾配があれば簡単にこの状態を保つ。つまり、アクセルペダルの動きによって求められている駆動力と、その状態で車輪回転速度の変化がどのくらい、どちらに起きているか(増速か、減速か、一定か)を検出して、勾配や負荷に応じて、エンジンが入って来なくても「押す」ことができると判断すれば、そして同時に電池残量が十分にあれば、エンジンは掛けない、すなわち燃費「∞」状態を維持する。
このエンジン・カットオフ=燃費∞状態は一度あるペースで走り始めると、走行時間の半分近くあることが、改めて確認できる。つまりこのクルマの場合、そこはエンジンが止まっている。それもごく短い時間でも頻度高くオン/オフを、”こまめに”やっている。もちろん人間がそれと感じるのは、内燃機関が発する音と特定の軽い振動だけなのだが。もちろんメーターパネルの中の「駆動モード表示」(けっこう反応・表示切り替えが遅れることがある)、あるいは瞬間燃費表示の場合は0L/100kmが示されることでも、それと知るわけだが。他には、今はエンジンで走っているのか、エンジンは止まって、ごく短時間であってもコースティングしているのか、軽くモーターで押しているのか、普通のドライバーではおそらく認知できない。そのくらい「ふつうに」アクセルペダルと駆動力、加減速との関係が素直に”つながって”いる。しかも敏感すぎたり、ギクシャクしたりすることもまったく(ほんとに、その言葉のまま)ない。瞬時の切り替え、かつショックレスであると同時に、適度なマイルドさも併せ持っている。これは間違いなく「仕込み」の成果。
電池のSOCが低くなると、メーター等に表示されるセグメントで言えば「2」まで減ると—1まで減ることは、少なくとも今回の普通の試乗中はなかった。全開加速や中高速からのアクセル全開・追い越し加速の確認を繰り返すと、ごく短時間「1」が出ることはあったが—、40km/hほどからでもエンジンが始動し、2速へのシフトアップが起こる65km/h前後まで、アクセルペダルを踏み込み側にしていると高めの回転速度を保ったまま、もちろん回転変化は車速と連動しているが、駆動+発電を続ける。この時はちょっとうるさく感じる。この状況でも、アクセルペダルを戻し側に動かすと、即、エンジン停止&駆動伝達ドグを抜く。いずれにしても発進はもちろん30+km/hまではエンジン駆動はできない/しないので、ある程度のSOCを残しておくこと、SOC最少状態ではシリーズハイブリッド走行となるはず。でも今回はかなり意地悪な状況も試したがそこまでSOCが落ち込むことはなかった。
SOC表示に関しては、「full」になることも今回は目視できていない。「スポーツ」モードのBレンジでかなり強いアクセルオン、オフ=回生減速を繰り返し、その最後に少し長い下り坂があって、停止直前までずっと回生減速した時は、常用最大位置まで一瞬上がった。
そしてエンジンがメインで駆動する状態に入ってからは、アクセルペダルを少し明確な動きとストロークで押し込むと、最初にちょっとだけフワッとした「力を上乗せしますよ」と言ってくるような過渡の感触が入りつつ、でも遅れほとんどなく「クルマを押す」力が立ち上がる。その強さは、アクセルペダルの踏み込み方に対応して、柔らかく、と表現するところから、グィッ、ググゥッと、などと表現するあたりまで、様々に変化する。それが車速を高めるのと同調してエンジンの音、パルスの刻み方も細かく、速くなっていく。つまりエンジン〜駆動輪までは回転がダイレクトにつながっていること、これがドライビングのリズムを作る上ではものすごく大事で、逆に日本のICE+CVT車、電気負荷CVT車、そして本来はそうしなくていいはずのシリーズハイブリッドクルマの全てが持っている悪癖、「ラバーバンド・フィール」は、このクルマには存在しない。しかもアクセルペダルのいろいろなパターンでの動き=駆動力デマンドとモーターの「押し出し」=トルク増加の関係がとてもよろしい。だから走らせていて楽しくなってゆく。
ただし個人的には、やはりモーターが生み出す駆動の実感=振動としての特質、すなわち基本はサインカーブで、1kHzを越えるような「力のパルス」がない回り方は“飽きる”ことが、このクルマでも実感された。
次のドライビング・パターンとしては、ある程度の速度、例えば70〜110kmでほぼ速度維持しているところから一気にアクセルペダルを「奥まで」踏み込む、そんな状況。いわゆる「追い越し加速」を試みると…
まず先ほども紹介したように、モーターがグィッと押し出しを始める、のと同時に、間髪を入れずエンジン回転が「ビューン」と高まる。次の瞬間、と言っても感覚的にはほんの0.3秒程度で、その回転上昇したエンジンが駆動に「乗って」くる。そしてきれいにそろった燃焼のビートとちょっと乾いた感じのサウンドがそれこそリニアに高まりつつ、その高まりと同調して車速が伸びてゆく。ここでもルーテシアだと余裕駆動力が大きく、加速が強めでその伸びもいい。エンジンのビートとサウンドも、ちょっとしたスポーツエンジンのそれである。そしてイメージした車速に到達してアクセルを止めるときれいに加速が収まり、そこで必要とする駆動に落ち着く。ここでほんの少しでも右足が戻し方向に動くと、エンジンが止まり、コースティングモードに移行するのは他の様々なシチュエーションと同じ。
■システム内で何が起きているか
この観察内容を、エンジニアリング・ベースで解きほぐすと…
速度が高いところでアクセルペダルが一気に踏み込まれて「キックダウン」へ、と「仕込み」のプロセスが起動すると、まずエンジンは直結駆動中であっても変速機構との嵌合ドグを切り離してHSGがその回転を一気に上げに入る。通常のエンジンならば「ブリッピング」、つまりスロットルバルブを開放方向に”叩いて”開け、燃料も噴き込んで空ぶかしに入るところ。このシステムでももちろんスロットルバルブは開いているはずだし、回転が上がるのに合わせてその先で必要になるトルクに合わせた燃料噴射量に移行するはずだが、それは変速機構との間のドグクラッチを嵌合して駆動を受け持つ瞬間でいい。その一方でエンジンが駆動から切り離されるのにタイミングとトルクを合わせて駆動モーターがタイヤに駆動力を加えに入るので、ドライバーは「駆動切れ」をまったく感じない。そうしているうちに、と言っても0.3〜0.5秒(車速やアクセル踏み込み直前の駆動状況などによって変わる、はず。何がどう作用するか判定が難しいくらい滑らか)で—深く踏み込んで加速している中からさらに奥いっぱいまで踏み増す、といったほんとに”意地悪”な条件を設定すると、もう少し時間がかかることもありそうだったが—、ということはエンジンが駆動から離れていることが理屈で考え、感知しようとしてやっとわかるぐらいの時間経過で、エンジン回転上昇・その時の車速とダウンシフトした変速段(2ステップのダウンで2速)の関係で決まる回転速度に一致、各気筒へ順次の燃料噴射…というプロセスが完了して、変速機構との間のドグクラッチ嵌合、という一連のプロセスが進行しているのである。でも、そうと理解するためには、変速機構や内燃機関、モーターに関する技術的な知識と、この駆動機構の構成を脳の中で描くだけの技術者としてのトレーニングが不可欠。もちろんふつうのドライバーは、何も違和感なく、スパッと、スルッと元気のいい加速に入った…というだけでいいのだ。
さらにもう少し観察を深めると、この時(他)のHSGによるクランキング(モーターからエンジンを回す)では、クランクシャフトにコンロッド+ピストン4組が連結して往復運動し、けっこう摩擦が大きいはずのカム駆動系もともに回っているはずなのに、軽快に回転が上がる。普通のエンジンのレブ(回転)アップと違って、ここで燃料を噴き込む必要がないことも燃費の良さに直結するわけだが、それとは別にレシプロエンジンというものの中身を知っていると、回転変化の速さがなかなかの”切れ味”だと感じられる。ということはエンジンそのものの回転慣性、いわゆるフライホイールマスが相当に小さい、はず。これが低いギア・ポジションでの一気の加速でも、エンジン回転上昇のリズムの良さを生んでいるのではないかと思われる。これまたスポーツ・エンジンのセオリー。もともとフライホイールマスの最大の役割はその回転慣性を発進時に使うこと。つまりレシプロエンジンが発進時、つまり出力回転ゼロではトルクを発生できず、そこでクラッチやトルクコンバーターなどの「スターティングデバイス」を使い、エンジン側の回転を少し高めた中で徐々に駆動トルクを立ち上げるようにしてあるのであって、それでもなおクラッチミートの瞬間に駆動輪までをグイッと回し始めるための回転力をエンジンの出力軸=クランクシャフトまわりに物理的に”溜めて”おくために「はずみぐるま」としてのフライホールにかなり大きな質量を付与している。でもこの動力源→駆動機構においては、発進時にそのはずみぐるまの回転慣性は必要ない。エンジンが仕事をしている時の回転変動や振動を押さえ込むために必要な慣性質量を持っているだけでいい。だから常識的な乗用車用エンジンよりもフライホイールマスを相当に軽くできる。すなわちスポーツ・エンジンの基本に重なる。
…と、こんなところにまで「へぇ!」を見つけてしまう、そういうテクノロジーなのではあった。
■さらに体感確認を続ける
さすがに、ほぼ定常円旋回の状態に持ち込んで、「バランス・スロットル」状態、つまり走行抵抗+コーナリング・ドラッグと釣り合うだけの微妙な駆動力を使って車速を維持しつつ旋回している状態の中からその先に待つ脱出旋回に向かって微妙にアクセルペダルを踏む=右足を「押し込んで」いくところで、やはり車速と駆動力要求の状況によってモーターだけの駆動からエンジンが始動、合流する瞬間があり、そこではさすがにわずかな駆動力の増加の男月男感じ取る瞬間があった。とは言え、この微妙なアクセルワーク、バランス・スロットル状態の駆動力バランスからわずかな駆動力の上乗せ、というコントロールをする、できるシチュエーションとドライバーは極めて限られているので、おそらくほとんどの人々の運転の中でそれを感じ取る事は無い。挙動が変化、微妙な挙動変化につながるかどうか、とくに路面の命が下がっている状態では若干気になるかなと思われる程度の駆動力のステップ状の変化、非常に小さい段差ではある。私もそういう状況である程度のペース、タイヤの摩擦力を引き出しながら走らせているのでなければ、この駆動力のステップ段差はほぼ体感しないままに終わったと思われる。
「マイセンス」モードでデフォルトになっている(変更できない)パワートレイン「レギュラー」においては、これまで述べてきたようなアクセルペダルの踏み込み、止め、若干の戻しに対してはちょうどいい強さの駆動力の増減が、それも全体に少し「角」が柔らかい丸い感触で現れる。
そこでドライブセレクターを(もうシフトレバーとかセレクトレバーとは言い難いところがある)通常の「D」から「B」に1段手前に引いてシフトすると…。
このモードは当然ながらアクセルペダルの駆動0から戻し側において、回生による減速度を強めに発生する。一部のドイツ系電動車両ほど厳密な(ペダル・ポジションと減速Gの関係の)コントロールはしていないが、基本的に駆動0のペダル位置(当然ながらセレクターが「D」の時とこの「B」とではアクセルペダル・ストロークの中の「駆動0」のポイントが少し奥側に移動している)から10mm弱あるマイナス駆動側で、まずはそれぞれの速度域、例えば市街地からもう少しだけペースが上がっているような領域すなわち車速で言えば50〜60km/hあたりまでであれば、またさらにその上の80〜100km/hあるいはそれ以上というような速度域において、ペダル戻しに対する減速度の立ち上がりに少し違いがあるような印象が残ってはいる–モーター側変速段がLowかHighかの違い、の可能性もあるが、運転者にとってはどちらに入っているか判断の材料がない–が、基本的には駆動0からのペダル戻し、その時のアクセルペダル・ポジションに対してほぼ一定の減速度が現れる、そういう制御が仕込まれている。
いずれにしてもこれだけのストロークの中の、とくに足を戻す動きのコントロールはかなり難しいので、減速要求としては私などでもまぁ3〜4段階ぐらいのステップ状になり、停止あるいは減速後の速度目標、に対して最初の減速度は若干弱めで、そこで確かめながら減速度を強めて一定にする、といった制御にはなる。そのペダルの戻しにちょうど見合った感じで減速度が柔らかく立ち上がり、ペダルポジションを一定にするとほぼ一定の減速度が現れる。ただし都市高速で少しペースを上げたあたりからのペダル戻しに対しては、最初の減速度の、ということはすなわち回生に対する負荷立ち上げが若干弱く、その先で減速度が立ち上がってくる、という印象を受けたシーンが何度かあった。速度がある程度出ている状態では、最初から「キュッ」と回生による減速トルクを出さないようにしている可能性はある。というのもペダル戻しが上手でないドライバーだと、つまり雑に右足をパタっと戻されてしまうと、それに対して遅れ少なく回生を立ち上げると、急にきつい減速が現れて室内で感じるマイナスGも、また車両挙動もふらつく可能性があるから。駆動側もそうだがこの回生減速側でもやはり「良い加減」で実際のドライバーの平均的な運転のリズムに合わせて少し角を丸めている可能性もある。
で、このレギュラーモードの両レンジ、とくにBレンジは、回生による減速をドライバーとしては右足だけで対応できることになり、それこそ都市高速などの速度高め(本国では一般郊外路や高速環状線の日常領域)シチュエーションから都市内幹線道路等まで、事実上、シングルペダル・オペレーションが可能。多分この減速開始の立ち上がりの柔らかさなどを考え合わせると普通の技量のドライバーでもある程度「強めのエンジンブレーキ」というイメージでシングルペダルに近い走らせ方ができるのでは、と思われる。
ただし、運転しながら口述している中で「今」の一瞬もそうだが、Bモードで駆動0ポイントを雑に通り過ぎると、とくに40km/h以下のような低速寄りでは、少し「カクッ」と強めの減速度が現れてしまうことも、右足がまだまだ訓練途上のドライバーであれば起こり得る。減速初動の立ち上がりを丸めてはあってもちゃんと減速度が、とくに中低速域では出る。
ここでひとつ特徴的なのは、車速がジャスト10km/hを切ったところで、この回生による減速がカットオフされる。つまりドライバーとしては「ほとんど止まりそう」と感じるあたりで回生がはっきりと切れる。最後の何転がりかはメカニカルブレーキを使う、すなわちブレーキペダルを踏んで確実に止める、という操作が必要になる。
これは言うまでもなくパーマネント・マグネットのローターとステーター側コイルの間で吸着力が発生し、最後のところで「キュウッ」と引っかかるように止まる症状を回避するためのはず。PSAのBEVでも同様にここのところは回生を切り、あえてメカニカルブレーキとの協調制御は入れていない。それと同じやり方である。
このクルマを運転している時の感覚としてはほとんど「止まる寸前」なので、わかってしまえば、実際の運転の中での問題はない。一部のドイツ系電動車両では、この最後のところまでメカニカルブレーキとの協調制御によって減速度を維持して止める制御を織り込んであるので、それらと日々乗り換えるような状況では感覚の調整の必要があるわけだが、我々のような立場を除いてそういう人はほとんどいないので、ここはとくに問題ではないと考える。
ちなみに最近のフォルクスワーゲン各車のような「ヌメーッ」とした感触さえ覚えるコースティング時の転がりではないけれども、このクルマも駆動0を維持するとかなりよく転がる。それもタイヤのころがり抵抗が小さいだけでなく–もちろんそうしたタイヤであることは確かだがその一方で、このタイヤはウェット性能も、コンパウンド・グリップの悪さや水を弾いてしまう、あるいは水となじまない微小滑りなどを感じさせない–、ホイールベアリングまわりの転がり感はこれまでのフランス車に比べても、そしてもちろん日本の、ベアリングのプリロードを雑に抜いただけのクルマたちとは違って、素直によく転がる。速度がなかなか落ちない、という感覚を味わうタイプの転がり方である。
■ドライビングモードでの違いは?
ドライビングモードを「スポーツ」に切り替えると、こちらの仕込みは言うならばお約束どおり。
まずアクセルペダルの踏み込みに対して、ここでも当然、いつも主にモーターが仕事をしてクルマを押し出す、その駆動力の立ち上がりがぐっと強まる。ペダルを押したタイミングに対して反応がそんなに早くなるわけではないが、同じペダル踏み込み量に対して駆動力が強くなり、その分、アクセル・ストローク増加に対して立ち上がりからグッとクルマが押し出されて、速度がぐいぐいと上って行く。あるいはまた旋回立ち上がりなどでは速度上昇以前に「蹴る」力がぐっと強まる。これをモーターでやっている中で、最初の駆動力立ち上がりのニュアンスには適度の柔らかさがあり、そこから上昇の傾きが強くなる、つまり力が増加する立ち上がりのカーブが立ってくるのでそれはそれで面白いし、その力をどのぐらい引き出すかというコントロールも難しくないし、我々だと楽しめる。ただし若干ながら演出過剰という印象も残る。上手にアクセルペダルの踏み込みストロークを組み立てていけば、ペダルストロークそのものはより深い位置になるけれども、実際にクルマを押し出して行く駆動力としては同じ強さを、より良いデリカシーのある、踏み込み方向の右足の動きにもう少し余裕を持って引き出すことが、「レギュラー」でも可能である。
たしかに、ドライビング対する気持ちが少しアグレッシブになった時には、この「スポーツ」がうまくはまってくる。そういう印象はある。ただしそれをやると、日本に限らず世の中のクルマの流れや他のクルマのスピード・コントロールとは随分差がある、すなわち周りから見てちょっとやりすぎとも言われそうな走りになってしまうことは否定できない。
ペダル戻し側の回生減速効果も、とくにDレンジの比較では、この「スポーツ」の方が強く現れるようになる。ただし踏み込み側=駆動側と対をなすような感覚での強まり方なので、それはそれでリズム感としてはバランスが取れている。細かくは比較できていないのだが、「レギュラーの」のBレンジよりは減速効果が少しマイルドに感じられる。
一方、この「スポーツ」でのBレンジに関して言えば「レギュラー」のBレンジとあまり大きな違いは感じられない。ただしその状態で走ったのが前述のように、駆動側も、そこからの往復においても、かなりメリハリのあるアクセルワーク、加減速をしていた状況での感触なので…。この走り方に対して「スポーツ」の「B」はちょうど良いか、若干弱い、つまり状況によって少しフットブレーキの上乗せが必要な減速感だった。このBレンジの減速強度はおそらくモーター側の発電負荷とその時に現れるネガティブトルクの限界(発熱も含めて)で決められているような印象がある。
話を「スポーツ」モードでのアクセルペダル・ストロークに対する駆動力の現れ方に戻すと、立ち上がりの傾斜が強まることはもちろんで、これは明らかにモーターのお仕事なのだが、同時にエンジンがかなり低い車速から、つまり20〜30km/hあたりであってもエンジンが掛かりっぱなしになり、もちろんこのメカニズムからすれば極低速域でエンジンを回しておくわけにはいかないので、さすがに15km/h以下あたりではエンジンが姿を消すが、20〜30km/hの間ではエンジンが始動して駆動に加わる、ので、そこでベースラインとしての駆動力に厚みがある状態から、モーターが先程来述べているように強めの傾きを持ってトルクを上乗せしてくるので、これが非常に良い感じの力強さを、まずまず感触の良いコントロール性とともに生んでいる。
この、強めの駆動力を「スポーツ」を選んで使っている状態でのアクセル・コントロールについて言えば、加速とそして減速方向の両側について、基本的にレスポンスも良くコントローラブルなのだが、前にも触れたと思うが一定円を描く中でのバランス・スロットルや、その中から加速旋回に移っていくあたりの、ドライバーとしては非常にデリケートなコントロールをしている、そこで現れる駆動力の微細な増減を使いたいところでは、ここで仕込まれている「わざとらしさ」が、微妙なリニアリティが足りないと感じさせてしまう傾向が無くは無い。もちろん路面のμが十分に高く、かなり大胆な旋回運動を組み立てている状態では、そこから立ち上がり向かって一気にアクセルペダルを踏み込んで…というようなアグレッシブな運転操作に対しては、これで全く問題がないのだけれども。いずれにしても普通の人がわかる領域ではない。
ついでに付け加えておけば「スポーツ」ではこれもお約束どおりステアリングのアシスト量が若干減る。いつも述べているように私としては、こういうときのステアリングに求めるのは重さではなく正確さとインフォメーションなのでこれはどちらでも良い。
ただし重さが扱いにくくさせる方向には行っていない。
ドライブモードとしてはもう一つ「エコ」モードがある。これもまた非常に一般的な仕込みで、ただ実際に普通のドライバーが普通の道をドライビングの中で、エネルギー消費を抑える方向に働く可能性は高い。
というのも、ただ単に反応を鈍くするのではないから。もちろんアクセルペダル・ストロークに対する駆動力の強さ、その変化をより穏やかに抑えてあって、例えばアクセルペダル・ポジションを一定に固定したまま「レギュラー」から「エコ」へとスイッチングすると、駆動力がちょっと減少する。つまりアクセルペダル・ストロークに対する駆動力(動力システムの出力トルク)の変化の「傾き」を小さくしてあることが確認できる。さらにもうひとつ、エンジンをできるだけを掛けない、すなわち電動駆動をより広い速度と負荷のレンジで使うように設定してある。かつそこで、このモードなりにアクセルペダル・ストロークに対する駆動力の変化、とくに増加を、増加量は控えめでも一定のタイミングの中で、押す「強さ」が体感できる仕込みになっている。
ということは、雑に右足を動かす人であっても、その足の動きの先で過剰に駆動力が現れないだけでなく、しかもちょうど良い押し=加速感があったと感じたときに足を止めれば、ちょうど必要なだけの駆動力が得られている、という制御ループになる。つまりただ「鈍く」しているわけではない。リニアリティはちゃんとある。ここが何より大事なのだが–人間の運転だけでなく、速度自動制御においても動力システムの制御性は重要–、それがわかっている人・組織はとくに日本ではきわめて稀。そういう人士は、このクルマに乗っても体感できず、理解できないかとは思うが、乗って走らせてみることを推奨したい。
この「エコ」モードでは、フランスで常用される速度域、日本においては高速道路領域の80km/hを超えるあたりでも、基本的にはICE=エンジンをかけない。ちょうど今も、ほぼ平坦路、90km/hほぼ一定走行でEV走行中となっている。一方、Dレンジでの減速回生については、今ちょっと試みた範囲では、日本的に言えば高速域で、右足を戻した最初のところの減速度がちょっと柔らかく立ち上がるところは他の2つのモードと変わらないが、「レギュラー」で0.03〜05G程度の減速度が現れるのに対して、減速度が若干だが弱い体感。ただ、アクセルオフ〜減速開始で転がしている中で2つのモードを切り替えて、とくに「エコ」から「レギュラー」に切り替えた一瞬後に、ちょっとだけ減速度が強まるのが感じられる、という程度の差である。
話を駆動側に話を戻すと、アクセルペダルを踏み込んでいったところのモーターの駆動力立ち上げの変化率、すなわち立ち上がりの強さ、これはどのモードでもそうだけれども、アクセルペダルの踏み込み量をあるところで止めると、そこから一定の車速上昇に落ち着く、駆動力としてはそこまでで増えた強さで止めて維持する、という反応になっているのだが、「エコ」モードではこの増加率はまず立ち上がりが少し弱く、つまり踏み込んでもあまりグッと押してこないところから、さらに踏み込んでいくと、その最初に出た駆動力の強まりがペダルストロークの増加に合わせて増えていくという、「エコ」モードなりのリニアリティが仕込まれている。これはこれでちょっとのんびりできる感じの駆動力の増減、とくに増加のリズム感だと感じられた。
■ルーテシアとの印象の違いは?
ここで付け加えるならば、同じパワーパッケージを、制御もほぼ変えずに“ドロップ-イン”した形のアルカナとルーテシアでは、ルーテシアの方が車両重量で170kg軽く、パワーパッケージのほうはスペック上のパフォーマンスはもとより過渡的な駆動力の厚みの変化も、今回の体感範囲でほぼ一緒なので—ということは個別適応をしなくてもちゃんとまとまるようなところにパワーパッケージのチューニングが落ち着いたということでもあるわけだが—、重量が少ないルーテシアの方が相対的に余裕駆動力が大きくなり、その分だけアクセルペダルを踏み込んでいったところのモーターによる駆動力の立ち上げ・上乗せの厚みが体感しやすい。そしてもちろん、ちょっと強めに、奥までアクセルペダルを踏み込んでいけば、それなりに速く、これはこれでかなり元気が良い、あるいはマッスル=筋肉を感じる、そういうクルマになっている。
その反面で、トータルなバランスとしてはアルカナのほうが良い印象。ルーテシア/クリオとしてはやはり、モーターと電池の質量が車両運動における慣性力を増やし、そこでミドルレンジの速度・遠心力で走る旋回で、ちょっとだけだが、脚が上屋の重さを持て余しそうな瞬間が顔を出したりする。つまり遠心力に対してまず車体のロール運動に、脚に上からのしかかって外に行く感じがわずかに加わり、そこから少し旋回を強めると、フロントタイヤ側が少し摩擦力が足りなくなる時があって、もちろんこれはステアリングもう少し切ってしまえば別になんでもなく、おそらくそういう運転しかできない普通の人は全くわからないと思うけれども、そこで定常円旋回からわずかに遠心力を上げる、すなわち駆動はそれほど強めずに速度を上げてみると、少しフロントが外に向かい、旋回のラインがそのフロント側から大きくなるという、車両運動力学の本来の意味でのアンダーステアが、通常のICEだけのルーテシアよりは強い。とは言えそれも微妙な差で、遠心力を強めると「たたらを踏む」かのようにたどたどしくなる多くの日本車のようなひ弱さは影も形もなく、その特質をあらかじめイメージに組み込んだ上で旋回を組み立てていけば、それはそれなりにちゃんと応えるフットワークである。
最近のヨーロッパの電動車両らしくないなぁと思う事はひとつあるのは、まぁ日産車に近いというか日本車に近いというか、電動駆動をしている時に、その中でもより強まるのは回生に入っている時に、「ピィィー」系の高周波(といってもモスキートノイズのレベルよりは低い周波数)の音、スイッチングノイズ系の音が運転席の左前方から聞こえること。方向としては強電系コントロールボックスがあるあたりからのノイズである。
走行時騒音という面では、発進直後から30km/hまでの範囲でずっと、モーター駆動の冷却ファンの、それもかなり軸精度が低いか経年変化で擦れが出ている状態で回り続けているような妙な音が、時々うなりを伴って室内にも侵入してくる。これは日本市場向けに要求されている「電動車両の社外警告音」とのこと。車両個体にもよるが、かなり耳に付く状態のものがあった。この音は室内音を測定した中にも確実に混じっているはずである。
■学習制御の影響
このハイブリッド・パワーパッケージの、混合動力制御の中身に関して、今回体験したことをもう少し…。
一定の走行時間内における運転操作と加減速の頻度解析をして、直近の走行の中でアクセルペダル操作の頻度が高いところに駆動トルク応答の特性を合わせ込む、という、いわゆる「学習制御」、じつは「頻度解析」による適合を行っていることが確認できた。例えば意地悪テストで、キックダウンや全開加速などを繰り返し試み、モータートルクの強め方、エンジンを含めた駆動力の立ち上げが強いところを短時間(1時間かもう少し)の中で頻度高く使った直後、電池のSOCが低下していることへの対応と合わせて、モーター発進の後、40km/hあたりからエンジンが掛かり、何気ない程度の加速の中でもそのギアポジションのまま「引っ張り」、回生に移った時の減速度の強め方…等々が全体に荒い方向にシフトする傾向があった。これをしつけ直すのに普通に走って1時間ほどはかかったので、でもちゃんと元のパターンには戻るので、俗に言う「学習制御」、実態は一定時間内のアクセル操作と加減速の頻度解析をして、その頻度の中で高いところに制御マップのどこをベースにするかを合わせに行く、という仕掛けが織り込まれていることが明らか。で、ということは、そういう雑な運転をしてきた評価者、メディア、などが直前に入っていた個体を受け取って走り出すと、しばらくぎくしゃくした動きになりやすい。この頻度対応制御についての知識と体験がない評価車だと、そこでインプレッションが変わってくることも十分にあり得る。
●2022年12月“味見” (Lutecia=Clioに関しては7-8月)
●味見車両:Renault E-TECH HYBRID ARKANA R.S.LINE & Lutecia(=Clio)
●装着タイヤ: Kumho Ecsta HS51 215/55R18 H
●指定内圧 [前]230kPa [後]210kPa
(両角岳彦)
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