BEV-通常充電

都内のタクシーすべてがBEVに変わると1日に100万kWhが必要【自動車のCN化-その真実_全てBEVになる日は来ないvol.18】

1kWのヘアドライヤーとは違う自動車を電気で走らせる電力量とは?

最近、一充電航続距離の延伸を製品企画の核のひとつにしたクルマたちでは、100kWhに達する容量の電池を積むものも増え、前述のように動かさなければならない=エネルギーを消費する対象である車両の重量を、内燃機関で走るICEVと比べて600〜800kgも増大させるのと同時に、充電にもより多くの電力×時間を要するようになっています。単純計算で100kWhをフルに充電するには、2kWの充電器では50時間、最近の日本の一般向け充電器で基本になっている4kW器で25時間、宿泊施設などへの展開が進んでいる6kW器で17時間。

BEVを使う
一戸建て住宅でのBEV充電のイメージ。日本の現況では(じつは欧米でも)集合住宅にBEV用通常充電設備を設けるのは、1、2基でも、まずスペースの問題、設置と使用の両方で誰がどう費用を負担するのかなど、難しい面が多々ある。集合住宅住まいでBEVやPHEVを買ったけれど、充電は出先の急速充電器で、というオーナーも知っている。もちろん、電池の消耗・劣化は心配だ。まして居住者が所有するクルマの全数がBEVになる、という状況に対応するとなると、そのエリアの電力設備も含めたインフラ対応が必要になる。この写真は、BEVを住宅への電力供給にも使うことを想定したものだが、裏返して考えると、BEVが走るのに消費する電力は、それほどに大量だということなのだ。
写真:日産

100kWh電池を搭載した車両を日常的に使ったり、旅行先で充電するには6kW充電器が必須、というのが私の実感ですが、しかし一般家庭で考えると6kW=200V×30Aというのは相当な電力量。それを1時間使うのは、大風量のヘアドライヤーを全力で使っても1kWなので、その6時間分。十何畳あるリビングルームのエアコンを酷暑の中で使ったとして、それを4基同時にフル稼働させている状況です。100kWhの電池を積むBEVを240kmほど走らせて6kW×10時間、60kWhを充電するとすれば、そのそれぞれの状況のさらに10倍。日本の一般家庭の電力消費量は10〜15kWhという数字もあります。その5〜10倍もの容量を持つ電池が充電してあるBEVを、災害時などには定置電源として使おうというのも、日常に使う家電類にしてみればこれだけの電力量であることがわかれば、「なるほど」と納得できるはずです。逆にクルマを走らせるのには、乗用車といえどもそれだけのエネルギーを使う。そこで百余年の歴史を積み上げてきた炭化水素燃料とは、どれほど使いやすいものなのかが改めて実感されます。

計算のついでに、東京都内に今登録されているタクシーはおよそ5万台で、それが1日にそれぞれ80kmほど走行していますが、もしその全数をBEVにしたとすると、市街地走行なのでそれぞれ4km/kWhの電費と想定すると各20kWh、1日の総量で100万kWhの充電が必要になります。東京都全体としての電力使用量は1日平均約20億kWhという数値(2022年・東京都環境局による)がありますから、タクシーを全部BEVにしただけでそれを0.5%押し上げる、という概算になります。さらに問題は、電力消費は季節によって、それ以上に1日の中で大きく変動します。その中でBEVを大量に導入した時に、その充電がどの時間帯に集中するかによって、電力供給をどうするか、その発電の中で排出されるCO2の量は…となるのですが、この話はまた少し後で。

BEV-通常充電
最近ようやく宿泊設備や駐車場などへの設置例が増えてきた6kW(200V単相×30A)通常充電器。「通常」充電といえどもこれだけの電力が何時間か流れ続けるわけで、それなりの電力供給の裏付けが必要になる。一方、90kWhもの容量を持つ電池を積んでいると、その8割程度まで使った状態から満充電するには6kW器でも12時間、4kW器では18時間が必要になってしまうので、一充電での走行距離を延ばした重量級・電池容量大BEVの旅先での長時間充電には「6kW」を見つけたくなる。
写真:筆者

実際にBEVで様々なところに出かけ、それなりの距離を走るようになると、その移動の中での充電が欠かせません。そこでは何時間もクルマを停めたままにしてじっくり電流を流す、というわけにもいきませんから、できるだけ短時間でその先の旅程をカバーできるだけの電力を補充したい。そうなると大電流を一気に流し込む「急速充電」が、インフラストラクチャーとして不可欠です。つまり、簡単に立ち寄れる場所にできるだけ多くの急速充電設備を設けることが、BEV普及の鍵、なのは専門家でなくても理解できます。ガソリンスタンドのネットワークと同様に、そして給油と同じように5〜10分の停車で、何百kmかを走れるだけの電力が補給できる設備を“張り巡らせる”ことができれば…。でもそれは、日本国内に限っても、おそらく欧米、そしてこれから自動車社会が浸透して行く地域でも、それぞれ相当に難しい。
日本でBEVが市場導入された2010年頃からつい最近まで、その頃に企画された40〜50kWの電力を送り出す急速充電器が主流になっていました。これは当時、実用的なBEVのあり方を考え、シミュレーションなどを行ったところで「4人乗り乗用車で片道100km前後の往復」を想定した製品企画、そのための電池容量としては35〜40kWh程度というところに世界各社がいったん落ち着きました。その電池容量を、1時間で満充電にできる設備、ということで充電器のスペックも決められ、それでも400V×100Aという、一般社会ではまずお目にかからないような大電流を流し続ける設備なので、漏電などの事故が起こらないよう、それも露天なので雨などの気象にも十分に配慮して、コネクターから電線の被覆までを作った結果、かなり嵩張るものになりました。これだけの大電力を一気に送り込むとなると、通常の電力網からの電力を一度蓄える設備も必要で、そのスペースと重量もかなり大きく、基礎工事もそれなりに大掛かりになります。
もっともガソリンスタンドにしても、給油ポンプの下には貯油タンクを収めてあり(近年は二重構造にすることが要求され、その設備更新のコストなどから廃業、という状況も生まれています)、周辺設備も必要ですから、その意味ではエネルギー供給ネットワークの構築が大変なのは昔も今も変わらない、とも言えるでしょう。<続く>

(両角岳彦)

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