スーパーフォーミュラ 2025年第6・7戦 富士スピードウェイ spotter guide
■レース距離:第6戦<7/19(土)> 164.268km (富士スピードウェイ 4.563km×36周)
第7戦<7/20(日)> 187.083km (富士スピードウェイ 4.563km×41周)
(ともに、最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:120分)

(photo:JRP)
■タイムスケジュール:土曜日、日曜日の各日、午前中に公式予選、午後に決勝レースを行う週末2レース開催となる。「2025年全日本スーパーフォーミュラ選手権統一規則」第6条4項における「1大会2レース制」に該当。この場合、2戦それぞれのレース距離は最短110km、最長300kmとされる。
ちなみに
- 先頭車両が2周回を完了する前にレースが中止された場合、レースは成立せず、選手権得点は与えられない。
- 先頭車両が2周回を完了し、走行距離がレース距離の75%(小数点以下切り捨て)未満でレースが終了または中止された場合、レースは成立、選手権得点は1/2となる。
- 先頭車両がレース距離の75%を完了した後に終了または中止となった場合、レースは成立、選手権得点は全てが与えられる。
今回の2戦でこの「75%」に該当するのは、第1戦が27周、第2戦は31周。
金曜日(3/7)午前(11時〜)・午後(14時50分〜)それぞれ60分間の専有走行枠(午後のセッションに続いて5分間のスタート練習)が設けられている。
■予選:各戦決勝日の午前中(19日・午前9時10分〜 20日・10時10分〜)に実施 (予定)
ノックアウト予選方式:Q1はA,B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
- 公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。そこから10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行。
- 公式予選Q1のグループ分けは、第6戦は前・第5戦オートポリス終了時の、第7戦は前日・第6戦決勝終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
- 第6戦Q1の組分け(暫定)は…
[A組] 1, 4, 6, 8, 10, 14, 16, 19, 28, 38, 64
[B組] 3, 5, 7, 12, 15, 20, 29, 37, 39, 50, 65
- Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
- Q2の結果順に予選1~12位が決定する。
- 公式予選通過基準タイムは、Q1各組それぞれの1位タイムの107%以内とする。
- 各セッション終了直前にアクシデント等で赤旗提示、走行が中断された場合は、コースインして1周し、次の周回でタイムアタックが可能な残り時間(富士スピードウェイの場合は3分間)を設定して再開する。(スーパーフォーミュラの慣例として)
■「鍵」は「今季用タイヤの高温特性」「6週前の富士テスト」、そして「週末2連戦」フォーマット
まず「今季用タイヤの高温特性」。

スーパーフォーミュラ用ドライタイヤの構造と各部に使われている再生もしくは再生可能素材。(図版提供:横浜ゴム)
ケース(タイヤとしての骨格)に加えて路面と接するトレッド・コンパウンドも、「再生可能とされる原料」をこれまでよりも多く混練したとのこと。このコンパウンドが十分に発熱して表層が「溶けゴム」状態になった時の“グリップ”、すなわち路面に粘着して発生する摩擦力は、昨年仕様と同等になるよう調合したはずで、コーナリングスピードやラップタイムを見ても、変化はほとんどないことでそれが裏付けられている。しかしタイヤというもの、いつも言うようにそれで済むような簡単なものではなく、走行を始めたところでの熱の入り方、トレッド面からケースの外周を巻き締めているベルト層との接合面までのほんの7、8mmの厚みの中で、コンパウンドの中を温度がどう伝わり、「芯」のところの硬度変化がどう現れるかなどが、ドライバーが体感する「踏ん張り」感触が「去年と違う」ものになっている可能性が高い。しかも開幕は3月初旬で気温、路面温度ともにタイヤの温度を適正域に高めるのが難しいほど低く、その後も4月、5月の過ごしやすい気候の中でのレースだったし、第5戦オートポリスは土曜日が雲に包まれて走れず、日曜日だけで予選・決勝をこなしたので、走行データとしても十分な蓄積ができたとはいえない。そうした中で、レースを走り周回を重ねる中でのグリップの低下、いわゆる「デグラデーション」は昨年仕様よりむしろ良いかも=走行距離がある程度伸びてもラップタイム低下が少ない?という観測もされているが、それは路面温度が30℃台まで行くかどうか、という中でのことであって、ここから本格的な夏に入って、最初からコンパウンドの芯まで一気に熱が入るような状況だとどうなるか。ゴムを構成する高分子構造の「鎖」が弱まる方向なら、それがプツプツと千切れることで摩耗が進む可能性もある。

(photo:JRP)
そのあたりをある程度まで確かめつつ、そしてこのタイヤとのマッチングの微妙な部分の煮詰め、そこにドライバーによる走らせ方のスタイルなどにも合わせ込むためのマシン・セッティングの模索、に各チームが取り組んだはずなのが、6月上旬に2日間・4セッション、10時間にわたって行われた公式テスト。昨年、ダンパーのワンメイク化、ピッチング・コントロール機構の排除という、今日のフォーミュラカーとしてはかなりの制約が課された中、ここで「何かつかんだのでは?」と思われるチームが現れている、今季も複数チームのアドバンテージは維持されているが、3月のシーズンイン前のテストがなく、そのまま3大会・5戦の実戦に臨むことになった。体制変更やドライバーの移籍があったチーム/車両に関してはとくに、それ以外の面々も、この6月の富士テストには多くの“メニュー”を準備して走り込みを重ねたはず。その成果が、今戦にはかなり直裁な形で現れるのではないかと思われる。
それでもやっぱり大変なのが、今年3度目の「1大会・週末2連戦」フォーマット。金曜日に午前午後各1時間の占有走行枠が設けられ、昨年に比べて多少の時間的余裕ができたとはいえ、そこでいわゆる「持ち込みセットアップ」の確認から始め、それがずれていたら修正・確認、さらに決勝レースに向けてタイヤの摩耗・摩擦特性変化を確かめるロングラン、さらに予選の「一発」と決勝の「ロング」のそれぞれに合わせたセッティング確認。そして予選アタックのシミュレーションもしないと。翌日・土曜日の予選は9時〜10時なので気象状況も路面もかなり変わるから、参考にしかならないけれど、ドライバーの習熟もあるわけで…。そういう意味では日曜日の第7戦のほうが、前日の予選・決勝の走行状況とデータが使えるので、ずいぶんと組み立てやすくなるはず。
■タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク
ドライ1スペック, ウェット1スペック

横浜ゴムが供給するSF用タイヤ。溝のないドライ路面用。幅が広い方が後輪用。再生可能資源導入を示すグリーンの帯が入る。(photo:JRP)
■タイヤ使用制限:ドライ(スリック)
2025年全日本SF選手権統一規則・第23条2項には、「競技会期間中を通じ、1レース、車両1台あたりに使用できるドライタイヤは最大6セットとする」と規定されている。
■決勝中のタイヤ交換義務:あり
- スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
- 第1戦:先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。
- 第2戦:先頭車両が1周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。
(富士スピードウェイの第1SCラインはピットロード分岐・本コースとの間に入るゼブラゾーンの起点、減速用S字カーブ手前で、本コースまで横切る白線で示されている。ちなみに第2SCラインはピットロード出口先・ピットアウト指示ラインがTGRコーナー手前まで伸びた先に直交する形で示された白線)
- タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
- レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合は交換義務の対象として認められる。
- レースが(31周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
- 決勝レースの中でウェットタイヤを装着してコースインした場合、このタイヤ交換義務規定は適用されないが、ウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる。
富士スピードウェイでのタイヤ履き替え戦略は…
近年のラップタイム推移で見るかぎり、富士でのレースではタイヤがフレッシュな状態からの走行で14〜15周、64〜68kmの走行でラップタイムが落ち込む傾向が、多くの車両+ドライバーで現れている、ということは、まず第6戦で最少周回の10周完了=26周を残してピットへ飛び込むのはちょっとギャンブル。単純にラップタイムを積算するシミュレーションでは「均等割」ならフレッシュタイヤの“美味しいところ”を使い切りつつの2スティントになるので、それが最速になるはずだが…。なかなかそうはいかないのが「相手がいる」サーキットレースの難しさ。少なくとも狙いよりも後方のスターティンググリッドになったマシン+ドライバーは、10周完了でピットに飛び込み、そこで展開を変えるべく動くだろう。あるいは先頭グループでも前を押さえられてしまった場合、10周でフレッシュタイヤに履き替えて「空いた」スペースでペースアップ、短目のレース距離だからこそ、ここで先行するライバルとの差を詰める、いわゆるアンダーカットを狙うのももはや定石。スタートから先行できて前を走る車両の後方乱流の影響も少なく早いペースを保てたマシン+ドライバーは自身のラップタイムが落ち始めたら、先にピットストップした、俗にいう「裏」のライバルとの間にピットロスタイム分の余裕が残っている段階でピットに飛び込む。36周だけのレースでピットストップまでの最短周回が10周なので、この間の「ピットウィンドウ」はあまり広くない。逆に後方からうまく順位をゲインできた場合、SC(セーフティカー)が入る可能性なども考えつつ、最後の最後までタイヤ交換を引き延ばす車両が出てきても不思議ではない。
41周のレースになる第7戦ではタイヤ交換義務付けだけで1周完了したらピットストップは自由。今年序盤の鈴鹿、もてぎの2大会・2日目のディスタンス長めの戦いでは、1周完了でピットに飛び込む選択をしたドライバー+チームも現れた、が、さすがにそこで履き替えた2セット目で180kmをペースダウンなしに走り切るのは極めて難しく、スタートポジションの不利を多少なりとも打開できれば…というギャンブルになる。逆に「10周しばり」がないとなると、自身が走っているポジションと前後の関係、そこでフレッシュなタイヤに履き替えてペースを上げられるか〜履き替え直後の1、2周だけならコンパウンドが発熱・溶け出した最初の層によるグリップの高さ、いわゆる「一撃」を使って速いラップを刻むことはできるが、グリップが現れるのに任せてペースアップしてしまうと後になってコンパウンドの消耗、グリップダウンに苦しむことになる。ピットストップのタイミングの選び方は、イン〜アウトで誰と争うことになるかを計算しながらになる。自車が置かれた状況に応じて、ピットタイミングをどう伸び縮みさせるか、土曜日・第6戦でタイヤ消耗の進行や自身のレースペースなどが見えてくるはずでそれを反映して、作戦を選ぶことになるはずで、各車でバリエーションが増えるかもしれない。

(photo:JRP)
■タイヤ使用制限:ウェット 今戦は出番がなさそう…
- 1大会・2レース制の場合は最大8セット
■走行前のタイヤ加熱:禁止
エンジンに送り込む燃料の”流量上限”で性能をコントロールする、ということは…
■決勝レース中の燃料補給:禁止
■燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.5L/h) *ガソリンの性状(ブレンド)は地域と季節によって異なる。今戦の公式通知「ガソリン性状」に記された比重の値は「0.7470」。さすがにちょっと“重め”。夏場で暑くなる中、揮発性をある程度抑えるブレンドにしているようだ。
- 燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇=時間あたり燃焼回数の増加に対して1回の燃焼に使える燃料の量が減るので、回転速度に反比例してトルクは低下する。つまり一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになる。
- NRE(Nippon Racing Engine)導入直後の2014年は最大流量100kg/h(8000rpm以上)、2015年からは95kg/h(7600rpm以上)に設定され、以降、2020年まで鈴鹿と富士ではこの流量値が設定されてきた。2021年からはこの2つのコースでも他と同じ90kg(7200rpm以上)の設定に変更されている。
■オーバーテイク・システム(OTS):最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)。
作動合計時間上限:200秒間
ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は120秒。
- OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持される。概算で出力が60ps近く増える状態になる。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度までこの出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされる。
- ドライビングとしては、直線全体の加速(余裕駆動力)が強まり、先に待っているコーナーへのアプローチで速度が高まる、ということは、ブレーキングはその分だけ手前から始めないと、そのコーナーにターンインし、旋回することができる速度まで減速できない。OTSを作動させた時にはこの感覚の調整も要求される。
- 後方を追走している側は、前走車がOTSを発動させれば加速が段付き状に強まるので、それがわかり、どう対応するかを判断することは可能なはず。先行する側は、「ここで使ってきそうだ」と思ったら“ディフェンス”OTSを発動させる手もあり、実際にそうしたケースが増えているが、後続車両のドライバーは早めにOTSを切ると、お互いの作動不能時間が終わるのが自車のほうが早くなるので、そこで仕掛ける、といった駆け引きが生まれている。
- このオーバーテイク・システム(OTS)の発動を知る方法としてはSFgoアプリのテレメトリーデータになるのだが、それぞれの車両を選択表示させた上で、その画面を注視することが必要。しかしそこにアプリ上の伝送遅れ時間が、通信環境にもよるが、何十秒間かある。
- チームとドライバーの無線交信の中で、直前・直後の車両のOTS関連情報を知らせる、問い合わせるケースが多くなっている。ドライバーからは「(直接競い合っている)車両・ドライバーがOTSを発動させたかを問い合わせる交信もあるが、SFgoの伝送遅延時間では、即応が難しい。むしろ「残り何秒?」が、競争の組み立ての中では意味が大きい。
- ロールバー前面LEDは、当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。インターバルタイム中の点滅も引き続き表示される。残り時間がなくなると消灯。作動の状態にある時は、ロールバー上とリアのLED表示は「遅い点滅」。車両電源ONでエンジンが止まっていると、緑赤交互点滅。また予選アタック時にドライバー自身がその意思を外部に表示したい時には、このLEDを点滅させる「Qライト」機能も使用可。
で、富士スピードウェイという舞台では…
- 富士スピードウェイのコース・レイアウトを考えると、言うまでもなく最終コーナーの立ち上がり加速から作動開始、ストレ―トエンドまで約20秒連続作動させて加速と最終到達速度を高め、前を行く車両を捕らえるのが、まずは定番の使い方。
- 100RからADVANコーナー、さらに300Rと続く高速区間も、空気抵抗も増えている高速域でパワーオン、加速する時に駆動力の上乗せがタイムを削る効果を生む。直線よりもタイム短縮効果が大きい可能性すらある。したがって、ライバルに対してラップタイムを削っておきたい状況、例えばピットストップに向かうインラップをできるだけ速く走って、いわゆるオーバーカットを狙う、という時にはここで使うと意外に効果大かと思われる。
- セクター3はずっと上り勾配が続くので、出力増大がコーナーとコーナーの間の過渡駆動(トラクション)を強める効果を生むのだが、SFの場合はそもそもコーナリングスピードが速く、車両の質量に対して余裕駆動力が大きいので、このセクションの旋回からの「蹴り」はアクセルペダルをデリケートにコントロールする「パーシャル」領域がほとんどになる。したがってここでのOTSはあまりメリットがなさそうだ。
- ドライビングとしては、直線全体の加速(余裕駆動力)が強まり、先に待っているコーナーへのアプローチで速度が高まる、ということは、ブレーキングはその分だけ手前から始めないと、そのコーナーにターンインし、旋回することができる速度まで減速できない。この感覚の調整も、とくに富士の長いストレートとシャープに曲がり込む1-2コーナーでは難しいところだ。上りつづら折れの続くセクター3では、旋回の中からのアクセルオンで、ターボ過給特有の吸気圧力上昇の応答遅れ(ターボラグ)からただでさえ強く立ち上がってくるエンジントルク=低いギア(変速段)での駆動力がさらに燃料増量分だけ一気に強くなり、テールスライドを起こしやすくなる。元々デリカシーが必要な右足に、さらに繊細な感覚と動きが求められるわけだ。
- 一度作動させてしまうとその後120秒間は作動不可、ということは、最近の富士のレースペース(ラップタイム)がドライ路面では85〜86秒、タイヤ交換直後&燃料搭載残量・少で84秒台半ばあたりだったので、一度発動させた後は1周と2/5、例えばストレートエンドまで使った場合は、そこから次の周回のストレートを走り切り、セクター2を終わるあたり(ダンロップコーナー手前)までは使えない、という計算になる。
◆レース中のタイヤ交換ピットストップについて

(photo:JRP)
■ピットレーン速度制限:60km/h
■レース中ピットレーン走行+停止発進によるロスタイム: およそ20秒(近年のもてぎでのレース状況から概算した目安程度の値。ピットロードが比較的低速で切り返すビクトリーコーナー手前で分岐し、1コーナー手前で合流するレイアウトのため、国内サーキットの中ではかなり短い)。ピットストップによって”消費”される時間はこれに作業の静止時間が加わり、コースインしてから履き替えたタイヤが作動温度域に達するまでのロスタイム(1秒程度と考えておけばよさそう)が加算される。
これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが半周、セクター3にかかるあたりまでのペースで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で30秒、若干のマージンを見て32〜33秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となる。言い換えれば、ピットタイミングが異なる車両同士では、この「ミニマム32〜33秒」が、順位変動が起こるかどうかの目安になる。
■ピットストップ: ピットレーンでの作業が認められる要員は6名まで。ただし1名は「車両誘導要員」として、いわゆる“ロリポップ“を手にしての誘導に専念することが求められる。したがってタイヤ交換に関われるメカニックは5名となる。この人数の中でタイヤ交換以外の作業時間を削り取るべく、前側のジャッキアップを自動化。車両ノーズの進入を接触センサーなどで検出し、圧縮窒素ボンベからのガス圧力で伸縮するシリンダーを伸ばしてリフトさせる。後側は人手で空圧ジャッキ挿入後、リフトを自動化。どちらも空圧を抜けば車両重量でジャッキが“落ちる”。各チームのメカニック・グループの設計製作なので、車両検知・リフトのメカニズムがそれぞれに異なる。前側に自動上昇ジャッキ、後のジャッキ(これも空圧作動が普及)の挿入・上昇の作業に1名が付き、残り4名は各輪の場所で待機して車両が滑り込んできたら一気に4輪交換に入る。前輪側の一人が作業終了して移動、反対側の作業完了を確認した瞬間にフロントジャッキを落とし、リアは専任者が同様にジャッキダウンして、発進…という流れが一般的。このあたりは、各チームの知恵と練習の成果が現れるところ。
参考までに同時期開催だった昨2024年7月第4戦の、決勝レースで上位に入ったドライバーのラップタイム推移と、全車について、優勝車両が計時ラインを通過した瞬間を基準に、各周回でどのくらいの時間差があったか、同時に順位変動も示すことになる「ギャップチャート」を、以下に貼り付けておきます。

昨2024年、同じ7月に開催されたSF第4戦、決勝順位1〜10位に入ったドライバーのラップタイム推移。大きく落ち込んでいる周にピットストップ、タイヤ交換している。ピットアウト直後の周が上に飛び出すのはタイヤがおろしたての時に高いグリップを発揮するから。その一方で全体に右下がりの傾向、つまりグリップダウンによるラップタイムの低下がはっきり見てとれ、最初にグリップ任せで速く走ってしまうと早ければ15周ほどでデグラデーション傾向に直面することがわかる。

2024年第4戦のギャップチャート。優勝車を基準に毎周回、それぞれの車両がどれだけのギャップで計時ラインを通過したか、の推移を示す。同時に毎周回の順位変動も現れている。41周・10周目完了以降のタイヤ交換義務づけだが、ピットタイミングが1かなりばらついているのがわかる。
富士スピードウェイという“舞台”
- 富士スピードウェイは以前からのイメージで「高速コース」と思われがちだが、1周の平均速度で見るとスーパーフォーミュラのレースが行われる6つのサーキットの中では、オートポリスと同程度の「中速コース」だと言える。とはいえ、コースとしてのキャラクターが極端に異なる3つ(あるいは4つと見てもいい)のセクションによって構成されているのが特徴。
富士スピードウェイのコース平面図と、下のグラフ状曲線はフィニッシュラインを起点にした距離に対する高度変化、つまり勾配を示す。2.8kmあたりがダンロップコーナーで、そこから1kmほどのセクター3がきつい登り勾配のつづら折れレイアウト。(図版提供:富士スピードウェイ)
- まず最終コーナーから1コーナーまでの長いストレートがコース全長のほぼ1/3を占める。その後半~終端に至る到達速度が高く、そこにオーバーテイクの機会を見出せる。そのためには、最終コーナーの立ち上がりから、ロスなく駆動力を路面に伝え、初期加速を高めることがポイント。
- 1コーナー(TGRコーナー)-2コーナーからコカコーラコーナーは比較的低速な区間。コカコーラコーナーにむけてブレーキングに入るあたりにセクター1・2の区切りがあり、セクター1は、メインストレート後半の最速区間と1-2コーナーの組み合わせとなっている。
- その先、トヨペット100Rコーナーからヘアピン(ADVANコーナー)、さらに300Rと、国内のサーキットの中でも屈指の高速コーナリング連続区間であり、スーパーフォーミュラ車両では200km/h前後で自重の2倍を超えるような(1.5~2tと推測される)ダウンフォースを生成しつつ、4Gレベルの遠心力が作用する旋回が右・左・右と続く。とくに100Rは高い遠心力が一定時間続くという点で、国内のサーキットでも1、2を争うコーナーであり、空力ダウンフォースのレベルが一段と上がったSF19では、4Gを超える遠心力が数秒間にわたってドライバーの身体と車両に加わることになるだろう。ダンロップコーナー入口手前までがセクター2。
- その先、ダンロップコーナーからはがらりと趣が変わり、登り勾配の中を、小さく、深く、回り込むコーナーが連なって最終コーナーに至る。ダンロップコーナーからメインストレート中間、計時ラインまでがセクター3。
トップスピードかそれに近い速度から一気に速度を落とすポイントは、富士には2か所。カーボン=カーボン・コンポジットのブレーキディスクが赤熱。この色だと700℃前後か。(photo:JRP)
ダンロップコーナーの立ち上がりからシケインを切り返し、13コーナーに向かう区間は、いったん速度が落ち切った状態から急な登りの中を加速してゆく。
13コーナーはアプローチが登り勾配で先の路面が一瞬見えない中で右旋回に入る。その旋回の中で路面のカント(横断勾配)がクルマにとっては減少する形状になっていて、踏ん張りが効きにくい状態になりつつ、次のGR Supraコーナーに向けてラインを選び、左旋回に切り返す動きを作ることが求められる。
GR Supraコーナーは、見た目のカーブ形状に合わせて向きを変え、旋回に入ると、その先でさらに深く曲がり込んでいて、旋回~立ち上がりが苦しくなり、失速してしまう。そこで見た目よりもずっと奥で曲がっているコーナーをイメージして旋回を組み立てる。その場合も、アプローチから回り込む所のラインは選択の幅があるように見える。しかし13コーナーでの挙動次第で自由度が制約される。
さらにGR Supraコーナーの立ち上がりは登り勾配で加速する中、最終コーナーに向けてカントが途中で切り替わり、そこで左旋回を収めなければならないので、右側縁石に乗り上げるなど、車両運動の組み立てが難しい。最終コーナーは、その先の長いストレートに向かう立ち上がり加速にイメージを集中しながら、GR Supraコーナーから連続する自車の運動状態、さらに接近している車両がいる時はその動きを織り込んで、外側から大きめの半径を描いて回り込むか、内側を小さく回り込みつつ立ち上がりに向けて加速態勢を作るか、状況に応じたバリエーションが存在する。
後の表に示すように、このセクター3のコース距離は全周の38%であるにもかかわらず、ラップタイムに占めるセクタータイムの比率としては44%に達する。もちろん他の2つのセクターが高速で駆け抜けるのに対して、平均速度が格段に低いためでもあるのだが、きつい登り勾配の中に深く回り込むコーナーが連続することで、ドライビングもセッティングも、じつはここをいかにきれいに速く走るかが、富士スピードウェイ攻略のポイントになってくる。同時に、例えば予選アタックでは、タイヤの“一撃”グリップをこのセクター3まで残しておくことが、これまた重要なポイントとなるのであって、セクター1、セクター2で速いタイムを刻んできた車両が、セクター3でタイヤのグリップが落ち始めてタイムを失う、というケースもしばしば見られるのではある。
◆富士スピードウェイのセクター平均速度
*現在のコースレコード=2020年スーパーフォーミュラ第7戦・予選最速タイム(野尻智紀)<車両はSF19。燃料流量上限95kg/h>にて計算
セクタータイム[秒] | 区間距離[m] | 平均速度 [km/h] | 1周タイム比率[%] | |
セクター1 | 20.551 (18.553) | 1305 | 228.60 | 25.7 |
セクター2 | 24.187 (24.463) | 1523 | 226.68 | 30.2 |
セクター3 | 35.234 (40.028) | 1735 | 177.27 | 44.1 |
周回 | 79.972 (83.044) | 4563 | 205.41 | (100) |
(注)2020年に記録されたこのコースレコードをそれ以前の最速タイムと比較すると
セクター3でのタイムアップ幅が大きい。2017年・国本の従来最速タイム-()に記す-より4.794秒も速い。
逆にセクター1はほとんど2秒遅い。つまり低中速でもダウンフォースが効くところまで、
空力セッティングを低速寄りにシフトしているのが最近の傾向なのである。
付記:SF23導入以降:2023年第1・2戦、第6戦、2024年第4戦、第6・7戦における予選最速タイムは…
2023rd1・野尻智紀(計時予選) 1分22秒062 S1: 21.001秒 S2: 24.966秒 S3: 36.095秒 スピードトラップ: 299.169km/h
2023rd2・野尻智紀(Q2) 1分21秒196 S1: 20.895秒 S2: 24.628秒 S3: 35.672秒 スピードトラップ: 298.343km/h
2023rd6・牧野任祐(Q2) 1分22秒063 S1: 20.905秒 S2: 24.891秒 S3: 36.267秒 スピードトラップ: 296.703km/h
2024rd4・福住仁嶺(Q2) 1分22秒543 S1: 20.986秒 S2: 25.020秒 S3: 36.535秒 スピードトラップ: 303.371km/h
2024rd6・福住仁嶺(Q2) 1分22秒726 S1: 20.896秒 S2: 24.754秒 S3: 36.074秒 スピードトラップ: 291.105km/h
2024rd7・坪井翔 (Q2) 1分21秒880 S1: 20.965秒 S2: 24.634秒 S3: 36.281秒 スピードトラップ: 291.105km/h
こうして並べてみると、気温・路面温度が上昇する7月はタイムがかなり落ちていることがわかる。とくに昨年7月の第4戦は全体のタイムが伸びていない中で福住が直線重視のセッティングを施していたか、直前車両のスリップストリームがうまく使えたか、などの要因で僅差の最速を記録、ポールポジションを獲得したのでは…?とみることもできそう。ちなみにこの時の予選Q2は上位4車が0.03秒差の中に集中する結果だった。この日は気温30〜31℃、路面温度40〜42℃。
同第6戦ではポールポジションの福住と2番手・太田の差が4/1000秒。翌日第7戦では全体にタイムが伸び悩む中、坪井が最速。直線エンド手前の速度が前日の福住と全く同一なのが興味深い。

(photo:JRP)
(両角岳彦)
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